アルマ望遠鏡を使った超巨大ブラックホールの質量測定
- 大西響子
- 総合研究大学院大学
銀河とブラックホールの共進化の証拠?ブラックホール質量
図1 超巨大ブラックホールの質量と、母銀河の中心部分(バルジ)の星の速度分散の相関関係。バルジの速度分散は、星の各方向の運動の激しさを表しており、これが大きいほど重力源が大きい事を表します。この相関からは、全体にバルジ部分の重力源が大きい銀河ほど重いブラックホールを持っている事が読み取れます。
宇宙に多数存在する銀河は、中心に高い確率で巨大なブラックホールを持つと考えられています。これらのブラックホールは太陽の数百万倍から数億倍もの質量を持つことから、「超巨大ブラックホール」と呼ばれます。超巨大ブラックホールは、それを含む銀河(母銀河)の成長に深く関わっており、互いに影響を及ぼし合いながら進化していると考えられています。この進化過程を、銀河とブラックホールの共進化と呼んでいます。しかし、超巨大ブラックホールはとてもコンパクトな天体であり、サイズにして銀河の数十億分の一程度かそれより小さいとされています。なぜ、そのような「小さい」超巨大ブラックホールが銀河に影響を及ぼすと考えられているのでしょうか?
これまでの研究から、銀河は衝突合体を繰り返して進化することが分かっています。この事実と、衝突する銀河それぞれの中心に超巨大ブラックホールがある事を考えると、銀河とともに超巨大ブラックホールも成長していることが期待できます。そこで、近傍の銀河について超巨大ブラックホールの質量と、それを含む銀河(母銀河)の中心部(バルジ部)の質量や明るさ等を詳しく調べると、これらの物理量の間に相関がある事が分かってきました(図1
)。この事は、母銀河の成長・進化に超巨大ブラックホールが大きく影響している事を示しています。このため、超巨大ブラックホールの質量は、銀河とブラックホールの共進化過程を解き明かすカギになると考えられています。
ブラックホールの質量測定は意外と大変
しかし、この共進化過程の全貌は、あまりよく解明されていません。主な理由は、超巨大ブラックホール質量の精密測定★01
が多大な観測時間と努力を要する事による、観測天体数の少なさです。現段階で超巨大ブラックホールの質量の精密測定が行われた天体はおよそ80天体であり、これは数千以上ある近傍銀河の数と比べて非常に少ないと言えます。
これまで、ブラックホール質量を精密に測定するには、銀河内部の星やイオン化ガスや、強い電波を発する天体であるメーザー★02
の動きを観測し、どのような質量分布ならば観測されるような速度場を実現できるかを調べる研究が行われてきました。このうち星の動きを観測するものは、手法が確立されているために事例が最も多い一方で、適用される天体が銀河の形態分類でいう楕円銀河もしくはレンズ状銀河★03
のみに限られています。銀河とブラックホールの共進化を探るためには、様々な進化過程の銀河で超巨大ブラックホールの質量と母銀河のバルジの質量などを計測する必要があります。イオン化ガスやメーザーの動きを観測する手法では、銀河の形態は問われません。しかし、イオン化ガスの動きは単純な計算モデルでは説明できないほど複雑であることが多い事、また超巨大ブラックホールの近くに強いメーザーをもつ銀河の数が少ない事から、この二つの手法を使っても質量を精密に測定された超巨大ブラックホールの数を増やすことは困難でした。
分子ガスを使った新しいブラックホール質量測定
そこで、私たちは新しい電波望遠鏡アルマを使って、銀河内部の分子ガスの動きを観測する事で、その中心にある超巨大ブラックホールの質量の精密測定をすることにしました。これまでの電波望遠鏡では達成されなかった感度と空間分解能をもつアルマ望遠鏡を使う事で、超巨大ブラックホール質量の導出が可能になると考えたのです。もしこの手法が可能であり、分子ガスが検出される銀河の全てに適用できるとすれば、飛躍的にたくさんの、そして多様な種類の銀河について、中心の超巨大ブラックホールの質量を測定する事が可能になります。
私たちはアルマ望遠鏡の初期科学観測で2012年に観測されたNGC 1097という近傍の棒渦巻き銀河(図2
)について、超巨大ブラックホールが存在すると考えられる銀河中心から半径約2000光年以内にあるシアン化水素(HCN)とホルミルイオン(HCO+)の分布と速度場を調べ(図3
)、それをモデル計算で説明することで超巨大ブラックホールの質量を求めました。銀河内部の速度場を計算するためには、その周辺の質量分布の情報が必要です。質量源として、銀河中心の超巨大ブラックホールと周囲の星を考え、ハッブル宇宙望遠鏡の観測結果から導いた星の分布に超巨大ブラックホール質量として太陽の0から7億倍の質量を足し合わせ、それぞれの場合でどのような速度場が実現されるか計算しました。その結果、今回観測された速度場を最もよく説明するのは、超巨大ブラックホールの質量が太陽の1億4000万倍のときという事が分かりました。
図2 ろ座の方向約 4700万光年先にある、棒渦巻き銀河NGC 1097。欧州南天天文台VLTが可視光で観測。(Credit:ESO/R.Gendler)
図3 左:アルマ望遠鏡で観測したNGC1097中心部。シアン化水素(HCN)の分布を赤色と等高線で、ホルミルイオン(HCO+)の分布を緑色で表現し、可視光画像に合成しています。HCNとHCO+の両方が存在する場所は黄色に見えています。 右:アルマ望遠望遠鏡で観測したHCNガスの運動を色で表した画像。赤色の部分はガスが私たちから遠ざかる方向に、紫色の部分はガスが手前に近づく方向に移動しています。Credit:ALMA(ESO/NAOJ/NRAO),K.Onishi(SOKENDAI),NASA/ESA Hubble Space Telescope
この結果から、今まで超巨大ブラックホールの質量推定が難しかった棒渦巻銀河において、分子ガスの速度場を用いることでそれを精密に測定できる事が初めて示されました。今回の結果で楕円銀河やレンズ状銀河に限らず、より多様な形態の銀河について超巨大ブラックホールの質量を求める可能性が開けたと言えるでしょう。また、ブラックホール質量測定にかかる時間も、アルマ望遠鏡の高い感度により、飛躍的に短くなる事が期待できます。例えば、これまでの望遠鏡で50時間以上かけて観測されていた天体を、2013年3月に開始したアルマ望遠鏡の本格運用ではわずか1時間程度で十分に観測できます。さらにこの手法のもう一つの強みは、観測対象である分子ガスが、イオン化ガスなどとは異なって単純な回転運動をしている事が多く★04
、モデルを作りやすいという事です。これらの事から、銀河内部の分子ガスを観測するという新しい手法を使う事で、今後質量測定をされる超巨大ブラックホールの数は非常に早く増えていくだろうと期待できます。
ブラックホールの質量から、銀河の進化を明らかに
楕円銀河や渦巻銀河など、多様な形態の銀河の中心にある超巨大ブラックホールの質量を調べていく事で、銀河・超巨大ブラックホールの進化(成長)について、今後どのような知見が得られるでしょうか。銀河の形態は銀河の進化段階を示していると考えられていますが、冒頭でご紹介した「超巨大ブラックホール質量と母銀河の性質との相関関係(図1
)」は、銀河の形態によって異なる関係式をもつ事が近年分かってきました。現段階では約80天体でしかこの相関関係は明らかになっておらず、そのうちの8割程度は楕円銀河で占められています。今回の研究の成果によって、分子ガスさえあれば様々な形態の銀河での超巨大ブラックホール質量を導出する事ができる上、アルマ望遠鏡を用いて天体数を100、200と増やしていく事が可能になると期待できます。相関関係をさらに詳しく調べる事で、異なる進化段階における銀河とブラックホール質量の関係の詳細を整理する事が可能になると期待されます。この事から、現段階ではほとんど解明されていない銀河の進化過程について、また、ブラックホールがその過程にどのような影響を与えるのかについて、解明していくことが私たちの最終目標です。
アルマ望遠鏡ペーパークラフト、フルラインナップ!
アルマ望遠鏡は66台のアンテナで構成されており、そのうち54台は口径12メートルのアンテナです。12メートルアンテナは日本製、北アメリカ製、ヨーロッパ製と3タイプあります。残りの12台は、ひとまわり小さな口径7メートルのアンテナで、すべて日本が製造しました。これらを密集した配置で利用すると、ぼんやりと雲のように広がった天体の観測に力を発揮します。アルマ望遠鏡の重要な一端を担う7メートルアンテナ。その形状も他のアンテナとは異なり、少し小ぶりな姿がかわいらしくもあります。
アルマ望遠鏡のペーパークラフトはこれまでに、12mアンテナとトランスポーターがありましたが、8月に、この7mアンテナのペーパークラフトが完成しました。データをダウンロード★
してプリントすれば、どなたでも製作することができます。駆動部も再現され、本物に近い仕上がりになっていますので、熟練者向けの難易度の高い作品です。秋の夜長にじっくり制作に取り組んでみてはいかがでしょうか。めざせ、66台完全モデル!
左:日本製12メートルアンテナ熟練者向けのペーパークラフトです。仰角方向、方位角方向に動きます。 右:日本製7メートルアンテナ熟練者向けのペーパークラフトです。仰角方向、方位角方向に動きます。ホログラフィー受信機搭載、はしご昇降、ベランダドア・受信機室ドア開閉などの機能もあります。
左:アルマ望遠鏡移動台車(トランスポーター)熟練者向けのペーパークラフトです。タイヤの向きを自由に動かせます。 右:12メートルアンテナをトランスポーターに搭載することもできます。
★http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/multimedia/papercraft/