3Dプリンターを使った立体模型作り
すばる望遠鏡:望遠鏡の構造

造形した立体模型を触りながら、すばる望遠鏡の以下の構造を確かめましょう。文中で使用している用語については、「用語」セクションをお読み下さい。

  1. 望遠鏡なのに筒がない
  2. 主鏡から一番上の「トップリング」までが短い
  3. 世界最大級の一枚鏡
  4. 超広視野カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」
  5. 装置交換
  6. 望遠鏡の動き
  7. 用語

1. 望遠鏡なのに筒がない

すばる望遠鏡の模型。ピンクの丸をつけた部分が、迷光をさけるための筒。 市販の天体望遠鏡には、筒(鏡筒)があります。迷光とよばれる、望遠鏡内部などで発生する不必要な光の散乱をなくすためです。しかし、すばる望遠鏡では、重くなるのを避けるために鏡筒がありません。他の大型望遠鏡についても、同じことが言えます。鏡筒がない代わりに、主鏡のすぐ上にある筒(図1のピンク色の丸部分)や、観測装置の中の光学系を工夫して、迷光が入らないようにしています。
また、鏡筒の代わりに、「トラス構造」とよばれる複数の三角形の骨組構造により、望遠鏡の一番上の部分「トップリング」と、主鏡(一番大きな鏡)部分を結合しています。
図1:すばる望遠鏡の模型(精密バージョン)。ピンク色の丸をつけた部分が、迷光を避けるための筒。

すばる望遠鏡は、一番上の部分に重いカメラを取り付けるため(「4. 超広視野カメラ」を参照)、堅固な構造を持っています。他の8〜10mクラスの大型望遠鏡に比べ、特にトラス構造の部分が太く頑丈に作られています。

2. 主鏡から一番上の「トップリング」までが短い(焦点距離が短い)

宇宙からの光を最初に受ける、一番大きな鏡を主鏡といいますが、すばる望遠鏡では、直径8.2mの主鏡から一番上の部分「トップリング」までの距離が約15mです。トップリングの中央には、主鏡で反射した光が集まり像を結ぶ「主焦点(しゅしょうてん)」があります。つまり、主鏡から主焦点までの「焦点距離」が15mということになります。すばる以前に作られた反射望遠鏡に比べて短くなっています。例えば、岡山天体物理観測所188cm反射望遠鏡の主鏡からの焦点距離は9.15mです。すばる望遠鏡、188cm反射望遠鏡それぞれの、「焦点距離」を「主鏡の口径(直径)」で割った値を比べると、すばる望遠鏡の値が半分以下になっていることがわかります(188cm反射望遠鏡:9.15m / 1.88m = 4.87、すばる望遠鏡:15m / 8.2m = 1.8)。これは、主鏡を作る技術が発達し、焦点距離の短い(曲率半径が小さい)鏡を作れるようになったおかげです。

3. 世界最大級の一枚鏡

すばる望遠鏡は口径8.2mという、世界最大級の一枚鏡を持っています。主鏡が大きいほど、宇宙からの光を集める能力(集光力)が高くなり、かつ、細かい構造を見分ける解像度(空間分解能)が高くなります。つまり、大きな主鏡を持つすばる望遠鏡は、小さく暗い天体を観測する能力に優れています。

この主鏡は、温度が変化してもほとんど伸び縮みしない「ULE® ガラス (超低熱膨張ガラス)」を素材とし、7年の歳月と細心の注意をかけて作られた、世界で最も滑らかで高性能な鏡のひとつでもあります。例えば主鏡を、関東平野またはハワイ島の大きさ(約100km)にしても、表面のでこぼこ(鏡面誤差)は、紙一枚程度しかありません。ガラスで作られた主鏡の表面をアルミニウムで蒸着(コーティング)して、反射率の高い鏡にしています。鏡面の反射率を維持するために、ドライアイスによる清浄(CO2クリーニング)は2週間おきに、アルミニウムの再蒸着は2〜3年おきに行われます。これらの作業は、マウナケア山頂、すばる望遠鏡のドーム内で行われます。

本立体模型では、主鏡の部分に塩ビ(塩化ビニル)という、他の部分とは異なる素材が貼り付けられています。そのため、主鏡の位置が触ってわかりやすく、かつ、なめらかな鏡を実感しやすくなっています。

4. 超広視野カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」

すばる望遠鏡は、他の大型望遠鏡に比べて画期的な広視野のカメラを持っています。大きな望遠鏡ほど一度に見られる空の領域が狭くなりますが、望遠鏡の一番上に搭載された主焦点カメラでは、広い視野を撮影することができるのです。主焦点カメラ Suprime-Cam(シュプリーム・カム)は、望遠鏡のファーストライト直後の1999年より稼働し、最も遠い銀河候補の探査などで数々の成果をあげました。2017年に役目を終えましたが、2013年からは新型の超広視野カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC: ハイパー・シュプリーム・カム)が主焦点で稼働しています。

すばる望遠鏡主焦点に搭載された HSCの写真。HSCは、人の身長と同程度の、巨大なカメラです(レンズ筒の長さ165 cm、重さ3トン)。HSC は満月9個分の広さの天域が一度に撮影できる、世界最高性能の超広視野カメラです。独自に開発した 116 個の CCD 素子を配置し、計8億7000万画素を持つ巨大なデジタルカメラです。広い視野を持つ HSCの登場により、観測の効率が大きく高まっています。
図2:すばる望遠鏡主焦点に搭載された HSC。望遠鏡の一番上の部分、青い「トップリング」がまわりに見えています。

5. 装置交換

すばる望遠鏡では、観測目的に応じて様々な観測装置をとりつけ、交換します。トップリングの中央にある主焦点にて、副鏡とカメラなどを交換するほか、主鏡のすぐ下にあるカセグレン焦点は一番アクセスしやすい焦点であるため、複数の装置を交換します。地上の60%しか酸素がないマウナケア山頂で、安全に効率良く装置交換作業を行うため、自走する専用のロボット台車「CIAX(サイアックス)」がカセグレン焦点まで観測装置を運びます。各焦点に取り付けられる観測装置や、ロボット台車によるカセグレン焦点の装置交換については、下記「関連リンク」をお読み下さい。

本立体模型でも精密バージョン、シンプルバージョンともに、本物のすばる望遠鏡と同様に、副鏡("subaru_tele_E")とHSC("subaru_tele_E_HSC")の交換が可能です。カセグレン焦点にとりつける観測装置("subaru_tele_D")は本来は複数ありますが、1種類のみの造形になっています。ご了承下さい。

6. 望遠鏡の動き

すばる望遠鏡の模型。望遠鏡は上下左右に動く。 望遠鏡は水平方向(左右方向)の動きと、垂直方向(上下方向)の動きを組み合わせて天体を追尾します。頑丈な構造を持ち、500 トン以上あるすばる望遠鏡は、摩擦を最小限に抑えるために加圧された油パッドで円環状の「レール」の上に浮いています。そして最新のリニアモーターを取り入れた駆動システムでとても滑らかに動きます。観測時は、観測天体の近くにある明るい恒星を追尾し、0.1秒ごとに動きを微調整しています。この、望遠鏡の滑らかな動きと、高い天体追尾精度により、すばる望遠鏡はシャープな(高い解像度の)天体画像を撮ることができるのです。
図3:すばる望遠鏡の模型(精密バージョン)の動き。望遠鏡は、上下、左右に動く。ピンク色の丸をつけた6箇所に油パッドがある。

本立体模型も、本物のすばる望遠鏡同様、水平方向と垂直方向に動きます。模型で望遠鏡の動きをご確認下さい。(垂直方向の動きは、本物同様、約90度しか動きません。)望遠鏡は、図3のグレーのパーツ、円環状の「レール」の上に、6つの油パッド(ピンク色の丸をつけた箇所)で浮いています。模型では、グレーのパーツがお皿のように作られていますが、本当はこの部分は、円柱の形をした望遠鏡を支えるコンクリートピア(コンクリートでできた柱)で、地面までのびています。この望遠鏡を支えるピアは、円筒形のドームとは独立した基礎の上に建てられています。ドームが動いた時に発生する振動が望遠鏡に伝わるのを防ぐためです。

7. 用語

屈折望遠鏡と反射望遠鏡

可視光線で観測する天体望遠鏡のことを光学望遠鏡といいますが、光学望遠鏡には、凸(とつ)レンズを使って光を集める屈折望遠鏡と、中心部がへこんだ凹(おう)面鏡を使って光を集める反射望遠鏡があります。(すばる望遠鏡は、可視光線だけでなく赤外線も観測するので、「光学赤外線望遠鏡」といいます。)例えば、400年以上前にイタリアの科学者ガリレオ・ガリレイが自作したのは屈折望遠鏡、すばる望遠鏡は反射望遠鏡になります。
天体望遠鏡のしくみについての簡単な説明は、例えば、文部科学省科学技術週間「一家に1枚」ポスターとして2009年に制作・配布された「一家に1枚 天体望遠鏡400年」ポスターをお読み下さい。

主鏡・副鏡・第3鏡とすばる望遠鏡の4つの焦点

すばる望遠鏡は、主焦点、カセグレン焦点、そして2つのナスミス焦点という、4つの焦点を持っています。
すばる望遠鏡の模式図。
主焦点:望遠鏡の一番上の部分にあり、主鏡で反射した光が像を結びます。一度に観測できる空の領域(視野)が広いのが特徴です。

カセグレン焦点:主焦点に2番目の鏡「副鏡」を取り付けると、光が副鏡で反射し、主鏡の中心部に開けた穴を通ったところで像を結びます。この焦点は、望遠鏡が垂直方向に動く可動部の一番下にあり、アクセスしやすいため、装置交換が比較的容易です。

ナスミス焦点:カセグレン焦点の直前に斜鏡(第3鏡*)を置くと、光が進む方向が90度変わって像を結びます。望遠鏡の姿勢が変わっても装置の姿勢が変わらないので、重くて大きい装置を据え付けることができます。本立体模型では、望遠鏡可動部の両側にある、ナスミス焦点に据え付ける装置を置くための床が触ってわかるようになっています。(ベース部 "subaru_teleBase_C" が、ナスミス床です。)

*本模型に第3鏡のパーツはありません。本物のすばる望遠鏡では、図1のピンク色の丸で示した筒内の壁面に、第3鏡が格納されています。使用する時のみカセグレン焦点の直前に斜めに置きます。

図4:すばる望遠鏡の模式図。すばる望遠鏡サイトより転用。


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