佐藤勝彦 自然科学研究機構長 インタビュー(第2回) [3/4]
――重力波やニュートリノの観測について話が出ていますが、「国際光年」ということで、光に期待するものなどはありますか?
佐藤:私自身は背景放射の観測に尽きると思います。「光年」になったのも、宇宙背景放射の発見から50年ということになっていますし。ペンジアス・ウィルソンが発見したときに、これで豊かな情報が得られるということを言った人は、そうはなかったですね。その頃すでにスニヤエフ・ゼルドビッチ *1が、宇宙の大きな構造の種がちゃんと見えてくるはずだと言ったことは、本当に偉大なことだったと思います。
宇宙の初期からやってきているのですから、その途中の時代の情報は全部入っているということは、言ってみれば当たり前ですよね。でも、どういうふうに見えるんだとか、そういうことを予言する人は、あんまりいなかったんですよ。
――宇宙のパラメーターがかなり正確に決まり、背景放射の観測は「上がり」だと思ってしまった人もいるのでは。実はまだまだ宇宙背景放射には精査しなければいけないことがたくさん残っているということが、見落とされていなかったでしょうか。
佐藤:実は、WMAPの前に、宇宙マイクロ波背景放射に原始重力波の証拠が書かれているっていう論文が出ていたんですよ。だからWMAPに偏光観測をする装置が載っているんです。COBE衛星が成功したことによって、いろんな人が観測を真剣に考えるようになった。 実はCOBE衛星の上がる前に、杉山直さん *2と、宇宙マイクロ波背景放射の観測で宇宙定数があるか、またその値が時間的に変化しているかどうかをチェックできるという論文を書いています。宇宙定数、今ではDark Energyですね。
理論屋にもいろんなタイプがあって、トップダウンで予言するのが好きな人と、ボトムアップで、いろいろな観測に基づいて宇宙の現象を解明しようという人と、両方あるんですけど、宇宙背景放射のことになると、ちょうど中間くらいのことが言える人が大事だということですよね。観測を解析するだけではなくて、どういうことを観測すれば何が見えるかということをちゃんと予言できるような、そういう理論屋が求められていると思います。
佐藤:COBE衛星の後、観測と理論の連携研究がすごく進んだと思います。今や当然のこととして理論と観測合同の研究会が頻繁に開かれていますし、世界的にコミュニケーションは桁違いによくなっていますね。素晴らしい時代だと思いますね。
*1. スニヤエフ・ゼルドビッチ:ラシード・スニヤエフとヤーコフ・ゼルドビッチは、銀河団内の高エネルギー電子が宇宙背景放射を変化させる「スニヤエフ・ゼルドビッチ効果」を提唱。この効果で銀河団などが発見されている。
*2. 杉山 直(すぎやま なおし)氏:名古屋大学教授。観測的宇宙論、特に宇宙の構造形成、マイクロ波宇宙背景放射の温度の非等方性について研究している。