宇宙と光のこと ~天文学を読み解くヒント集~

先端技術センター 藤井泰範 研究技師 インタビュー [4/4]

――バンド10受信機ができてからチームがいろいろな賞を取っていますね。超伝導科学技術賞とか、天文台の台長賞もありますし、文部科学大臣の科学技術賞などいろいろありますけれども、何か印象に残っているものはありますか。

藤井:文部科学大臣賞(2011年)は、いい意味の印象がありまして、これは自分が技術員 *1のときにいただいているのです。研究ではなく技術をやっている人間がこういうところに立つことが出来てよかったと思います。
もう一つ、悪い意味というか、3人いる受賞者のうち、王 鎮さん(受賞当時NICT)鵜澤 佳徳さん(受賞当時国立天文台バンド10チームリーダー)は超伝導開発の功績が強いので、実績が伴っているのですが、私の場合は、受信機に仕上げるのが任務だと思っているのでこれから2年間かけて組み立てなければいけないタイミングでした。 賞をもらってしまったので、これで逃げられなくなったのです。これは必死につくらないといけないなと。

――バンド10は、科学観測をしながら運用を固めるというフェーズがそろそろ終わりますが、今後はどのようなことを考えていますか。

藤井:ほかの電波望遠鏡にも協力できることがあればどんどん協力しましょうということを1つのタスクとしてやっています。
また、先端的な研究開発として、多くの電波望遠鏡は今のところアンテナひとつで1画素しか観測していないのですが、それを例えば3×3の9個にするだけでも、観測時間が9分の1になります。このような受信機をマルチビーム受信機というのですが、現在の受信機のビームをただ増やすだけでは、冷却しなければいけない場所のサイズの問題や発熱も解決しなければならなくて、チャレンジングな仕事になります。
あとは、もちろんバンド10を開発したからにはさらに周波数の高いバンド11の研究も始めてはいるのですが、ではそのバンド11を作った時にアルマの受信機用冷凍機は受信機を10本までしか入れるところがなく、今は満席の状態です。そうしたら今ある2つの受信機を合わせて1つの受信機にし、空いたところに1本入れようということになります。「合わせる」と簡単に言うけれども、そう簡単ではないから今まで分かれていたのです。そのような本当にチャレンジングな研究は研究者の方に頑張って頂いて、「実際に作ればなんとかなりますよ」ぐらいなところから自分が入り込んで、また問題をつぶしつつ完成度を上げる事ができればと思っています。

――20年間常に最先端に携わっていらっしゃいますけれども、最先端に携わっていることの面白さはどういうところなのでしょう。

藤井:自分自身はそんなに最先端開発を行っているつもりはないのですが、メーカー在職中も含めて、最先端機器を要求する研究者の少し無謀な(笑)要求にこたえて達成し、研究者に喜んでいただけるのは、仕事抜きにして大変うれしい気持ちになるわけです。また、電波のおもしろさというのは、導波管の四角い管や溝が電気の信号を処理する装置になったり、基板のパターンの形がそのまま回路になるところです。信号の波長がミリメートルとか中間周波信号のセンチメートルくらいの長さになると、ミリメートルとかセンチメートルぐらいの金属のパターンが、例えばコイルやコンデンサになったり、装置のカバーが実は電気性能に影響を及ぼしたりします。電気回路なのだけれども、目で見える。

たとえばこの装置(写真)の白い基板の上に銅の金属パターンがあるのですが、この金属パターンの幅とか長さが回路として重要で、うまく信号を合成するとか通過させる役割を持っています。

――ラジオなどに入っている電気回路だと、コイルや抵抗などの素子が別にくっついています。

藤井:こちらはパターンそのものが素子と考えることができるのです。通り道が役割を持つのです。それは扱っていてわかりやすいし、技術的にも面白いです。

――この記事は例えばこれから技術者を目指そうかなという若い人たちも読むのではないかと思うのです。そういう人たち、あるいはそうでない人たちも含めて何かメッセージがありましたらお願いします。

藤井:自分が手を動かして改良できることというのは、すごくおもしろいです。与えられた問題をただ解くのではなくて、自分で問題を見つけて、その問題を解決するときの快感というのは結構忘れられないと思うのです。是非いろいろな人にも体験してもらいたいかなという気はします。

――今はバーチャルなものが多くなっていますね。

藤井:そうです。実際にやってみる。謎解きばかりなのですけれども、装置開発には理由の付かない不思議なことはほとんど無いのですが、問題はどんどん出てくる。それが解けてくるとだんだん物として良くなっていくのです。また、簡単な謎と謎が重なると複雑な謎になって、なかなか解決しない事もあります。
想像するに、今は授業とかゲームとか、問題が与えられていて、答えが既にプログラムに書いてあるようなものではないかと思います。プログラムされた解答を探すのも楽しいのですけれども、やはりリアルなところで自分が問題にぶち当たって、それを解決していく。これの楽しさを見つけられればやみつきになります。
こういう天文学の装置に限らず、どんどんぶち当たってもらいたいですね。

――お忙しい中、お時間と貴重なお話をいただき、ありがとうございました。


収録日:2015年10月14日
場 所:国立天文台 先端技術センター

編集後記
インタビューの後、7月に亡くなられた奥様のお話をうかがいました。
奥様の由美さんは、国立天文台の専門技術職員としてバンド4の超伝導素子製造に携わっていました。お二人は、チームとしては違うのですが、同じアルマの装置開発を通して、時には問題解決をしたり、時には装置の話題で愚痴り合うなどして、それがお互いの励みになっていました。
由美さんは、国立天文台での業務の他にも、最先端の技術に携わる女性技術者として積極的にイベントや講演に出かけ、国立天文台での物作りや、アルマ望遠鏡が解明しようとしている宇宙の話題などを伝える活動もしていました。 由美さんのご冥福を謹んでお祈りします。

超伝導素子の評価をする由美さん
このような時期にインタビューを受けてくださり、藤井さん、本当にありがとうございました。

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*1. 技術員:天文台には一般の方が天文学者と考える研究系の職員の他に、技術系、事務系など様々な職員がいます。技術員は技術系の職員では最初の職階です。

【関連動画】メイドイン国立天文台! アルマ望遠鏡受信機開発


第1部 受信機のしくみ編

第2部 受信機の製造編


2015.12.14