臼田知史 TMT推進室長 インタビュー [3/4]
――現在、TMTプロジェクトの推進室長というお立場ですが、プロジェクトマネージャーとしてのお仕事はすばる望遠鏡のあるハワイ観測所時代から経験されていたんですか?
臼田:ハワイ観測所に着任した1998年2月は、まだ望遠鏡を作っている最中でした。8.2メートルの主鏡が山頂に届いたのが1998年11月です。望遠鏡の一番下の焦点をカセグレン焦点 *1と呼びますが、ここに4つの観測装置を取り付ける予定でした。私は観測の目的に応じて装置を取り替える仕組みを作る計画に携わりました。望遠鏡に比べればとても小さいシステムなので、小さなメーカーと手を組んで、設計やプログラミング、進捗の管理までマネジメントすることを学びました。
また、観測装置と望遠鏡は別の人が別々に作っているので、接続がスムーズにできるように、電源や通信や機械的な接続部分まで、管理を担当するようになりました。その後、カセグレン焦点だけでなく他の3つの焦点(主焦点と2つのナスミス焦点) *1にも目を配るようになりました。その結果、望遠鏡本体についてもそれぞれの観測装置についても詳しくなるとともに、望遠鏡製造メーカーとのやり取りも多くなって、次世代の大型望遠鏡を作りたいという時に、リーダーとして当時の仲間と共に仕事ができるようになりました。
――夢のTMTの建設は、現在どんな段階なんでしょうか。
臼田:今は関連のメーカーと一緒に望遠鏡の構造や、それを動かす制御系の最終設計を行なっています。技術的なチャレンジも多いので、メーカーの技術者さんと検討し、TMTの本部とも情報交換をしながら進めています。例えば、すばる望遠鏡より4倍視力が良くなって、細かいものを見られるようになっても、グラグラしていたら良く見えないですよね。だから、すばる望遠鏡より重くて大きいのに、すばる望遠鏡よりもっと精度よくピンポイントで動かさなければならない。だから軽量化にも力を入れていて、主鏡の面積は13倍もあるのに、重さはすばる望遠鏡の4倍しかないんです。重いものを、さらに早く、そして精度よく制御するのはとてもチャレンジングですが、8.2メートル望遠鏡で経験を積み、良い性能を出してきたという自負や自信もあるので、こうして挑戦の機会が得られたことはとても幸せです。
――TMTは国際連携プロジェクトですが、その中で日本の役割を教えてください。
臼田:ドームと補償光学装置 *2はカナダ、鏡の一部は中国、インド、アメリカですが、それ以外の望遠鏡全体は日本の担当です。鏡に使用するガラスもオハラという日本の会社のものなので、望遠鏡の外見はほとんど日本製と言っても良いかもしれません。各国の中では日本が最も進んでいます。だから、望遠鏡を構成する492枚の鏡のうち、中心に近い方は日本の研磨した鏡、その外側が中国とインドで、ここまで合わせると望遠鏡の直径は25メートル相当になります。最外周は曲率が大きくなるので、技術的には難しいですが、そこはアメリカの担当になっています。日本は外側の曲率の大きな鏡を既に実証できているんですが、外側から埋めてドーナツ状の望遠鏡になっても仕方ないですからね(笑)。日本のいま置かれている状況を国際的に説明して議論して、折衝しながら進めています。英語で話すだけでも大変なのに、お互いの主張をぶつけ合うわけですから、かなり刺激的な会議になりますね。
*1. カセグレン焦点/主焦点/ナスミス焦点:すばる望遠鏡は、天体からの像を結ぶ焦点を4つ持っている。 ①主鏡に入射した光線が像を結ぶ主焦点。視野が広い特徴を持つ。②主鏡の後ろ側にあるカセグレン焦点。比較的複雑な装置も取り付けられる。 ③高度軸の両側、計2か所のナスミス焦点。望遠鏡の姿勢の変化を受けないため、大型の装置を安定に取り付けられる。(参考:すばる望遠鏡4つの焦点)
*2. 補償光学装置:望遠鏡が本来持つ解像力(視力)を発揮するため、地球の大気のゆらぎの影響を除去する装置。大気のゆらぎによる光の乱れを測り、それを打ち消すように途中の鏡を変形させることによって波面の乱れをリアルタイムで補正する。