宇宙と光のこと ~天文学を読み解くヒント集~

臼田知史 TMT推進室長 インタビュー [4/4]

――研究者、プロジェクトマネージャーとしてのお仕事に加え、講演会など天文学の普及活動などにも力を入れていらっしゃいますね。

臼田:例えばTMTの場合、完成して成果が出てくるのは10年以上先になります。もちろん、今40代の研究者も50代で研究を進めているでしょうが、今10代の若者はその頃ちょうど、私が赤外線天文学を始めたのと同じくらいの年齢になるわけです。我々が作ったTMTを使ってすごい大発見をしていくのは、いま10代の人たちになるでしょう。だから、彼らに興味を持って、使ってもらってこそ作った甲斐がありますよね。そこで、建設には膨大な予算が必要だし、すぐに役立つものではないが、それでも作るべき理由や、これを使って大発見するのは皆さんですよ、ということは訴えていかなければいけないな、と思っています。

――お忙しい研究者生活の中でも実践しようという想いは、どこで生まれたのでしょう。

臼田:どこでですかね? 初めての講演会は、出身地の長野県上田市の人たちに、すばる望遠鏡のことを話してほしいと頼まれたことですね。実際に話してみると、子ども達の反応も良くて、面白かったですね。特に将来を担っていくのは子ども達なので、大人向けよりも小学生を相手に話すことが多いですね。例えば地球外生命はいると思うか、いるとしたらどんなところだと思うか、などと問いかけると、面白い意見がたくさん出てくる。そこから話が広げられるので、我ながら良い授業だと思いますよ。

――彼らが育ち、参入してきた時の天文学業界はどうなっていると思いますか。

臼田:TMTを始め、国際化の波はさらに大きく、共同研究も多くなると思います。海外と英語で、しかも踏み込んだ要求や議論をしていく必要性も高まる。ビッグプロジェクトをマネジメントしていくことも、今よりもっと必要になっているでしょう。将来を見越して、そういう議論やマネジメントができる人材を育てたり、機会を増やして将来に備えたりしなければいけないと思います。

――次に続く人たちを育てるという情熱を感じました。臼田さんの後に続くであろう読者の方へ、最後に一言メッセージをお願いします。

臼田:TMTがほとんど日本製だと言えるほど、日本の技術は優れている。これは世界に誇れるものだし、国際連携プロジェクトをやればやるほど、技術力以外にも日本人の勤勉さなど、良さがたくさん見えてくる。だから例えば昔の私のようにエンジニアになりたいと思ったら、自分はこんなものを作りたいという夢を抱きながら、そういう世界に飛び込んでほしいと思います。

――お忙しい中、お時間と貴重なお話をいただき、ありがとうございました。


収録日:2015年10月22日
場 所:国立天文台 研究室

編集後記
お話されている時、エンジニアリングが好きだ、ということを繰り返しおっしゃっていましたが、大質量星形成の研究や小学生向けの科学コミュニケーション活動についてお話されている時にも、モノづくりのお話をされている時と同じ満面の笑みをたたえていたのが、とても印象的でした。10年後、完成したTMTを使って、臼田さんによって種をまかれた子ども達と共に笑顔で研究をしている未来を拝見するのがとても楽しみになりました。

top | 1 | 2 | 3 | 4


2015.11.30