分光宇宙アルバム

著者:青木賢太郎

この連載企画で読者のみなさんに紹介したかったこと

30年もの間、謎に包まれていたガンマ線バーストは、天文学者にとっては今や、遠方宇宙に存在する天体として銀河やクエーサーと並ぶ普遍的な存在になりました。GRB050904の残光スペクトルはガンマ線バースト研究がさらに盛りあがっていく契機となったと思います。そのようなデータの一つをすばる望遠鏡が生み出せたことを観測所に働く者の一人として誇りに思いますし、その観測の現場に居合わせたことを研究者冥利に感じます。

GRB050904の分光観測から8年が経ちました、しかし、赤方偏移が5を超えるような遠方宇宙に於いて吸収線の観測により元素の種類や量を計ることの出来る天体、出来た天体は未だ数えるほどしかありません。

ガンマ線バーストの観測は発生してから素早く観測計画を考え、実行する必要があり、日頃の準備と決断力、それから運も必要です。結果がなかなか出ない危険性もあり、「堅気」の研究ではない感もありますが、一方で望遠鏡を向ける時点では赤方偏移が不明のときも多々あり、どんなデータが得られるか分からない興奮もあります。

ぜひ、新しい研究者の参入を期待します。

現在の研究とこれから研究してみたいこと

久しぶりにとても明るいガンマ線バーストが今年、2013年の6月、赤方偏移5.9に発生しました。GTC, MMT, VLT, Geminiなど世界中の大望遠鏡がこぞって、そのガンマ線バースト残光に向けられました。もちろん、すばる望遠鏡でも観測し、6月から7月にかけてはその観測データの処理にてんてこ舞いでした。今まで考えたことのないような高精度な解析が特に要求されました。東京大学の戸谷友則氏を主著者とする論文を現在学術雑誌に投稿中で、その審査結果を待っているところです。いずれ、天文台ニュースででもその結果が紹介されるのではないでしょうか。

その日の夜は元々は私が自分の研究の為にクエーサーを観測するはずだったのですが、嬉し悲しで、ガンマ線バースト残光観測に時間を明け渡すことになりました。ガンマ線バーストが出現していないときは、私はクエーサーの分光観測、特に太い吸収線を示す一風変わったクエーサーの分光観測からガスやエネルギーの流出量を見積もる研究をしています。最近は、すばる望遠鏡を使って未知のクエーサーを探すこともやっています。

著者データ

氏名
青木賢太郎
所属
国立天文台 ハワイ観測所
職名
サポートアストロノーマ
専門分野
活動銀河核、ガンマ線バースト

* 2013年11月現在