分光宇宙アルバム

24土星と環のスペクトル

小望遠鏡でも環をもった姿がみられる土星は、太陽系の惑星のなかでも最も馴染みのある天体です。

図1のスペクトルは、土星本体とその環に沿って分光器のスリットを当てて観測されたものです。この「分光アルバム」シリーズで何度も紹介されたように、スペクトルは天体の速度や運動を教えてくれます。土星の光は基本的に太陽光が反射したもので、このスペクトルの縦方向にみえる暗い部分は、太陽光に含まれる暗線(光が吸収される波長)を表しています。最も太く見える暗線は水素によるもの(バルマー線)のひとつです。

図1:土星のスペクトル。すばる望遠鏡高分散分光器(HDS)による観測結果。左はHDSのスリットビュワカメラを用いた土星の画像。本体(中央)の両側に環のスペクトルも写っている。

土星本体のスペクトルの暗線が傾いているのは、土星の片側(上側)が我々に近づき、反対側(下側)が我々から遠ざかっていることを示しています。つまり、土星の自転によってこのようなスペクトル線の傾きが生じているわけです。その波長差から、スリットを当てた赤道付近は約10km/秒程度で回転していることがわかります。理科年表によれば、土星の赤道半径は約6万km、自転周期は約10.6時間ということですので、これから計算される赤道付近の自転速度は9.8km/秒となります。測定のほうは、「土星表面」をどこにとるかによるところがあるので、結果はよく一致しているといえそうです。

一方、環のスペクトルを見てみると、上側と下側で波長がずれていて、土星本体の自転と同じ向きに回転していることがわかります。しかも、それぞれの環のスペクトルにも少し傾きがみられ、それが本体とは逆になっています。つまり、環の外側は内側よりもややゆっくりと回転していることがわかります。

さて、土星本体のスペクトルをより詳しく見ると、実は他にも2種類の光の吸収線がみてとれることがわかります(図2)。傾きがなく縦にまっすぐになっているのは地球大気による吸収線です。一方、傾きの大きい吸収線は上で紹介した、太陽のスペクトルそのもので、土星表面で反射されるので自転運動の効果が2倍効くために傾きが大きくなります。中間の傾きの吸収線は、土星表面のガス(メタンやアンモニアなどの分子)によってつくられる吸収線で、これには自転運動の効果がそのまま効いています。このように、高波長分解能観測は天体の運動や大気での光の反射・吸収といった、天文学に不可欠な情報を明瞭にしてくれる、きわめて有用な観測手段です。(このデータの取得・画像作成はハワイ観測所の田実晃人氏によるものです)

図2:土星のスペクトルの詳細。地球大気による吸収線、太陽光の反射にみられる(太陽表面でつくられた)吸収線、太陽光の反射の際に土星表面でつくられた吸収線の3種類が、異なる傾きで写っている。

記事データ

公開日
2015年2月 日
天体名
土星とその環
観測装置
すばる望遠鏡高分散分光器(HDS)
波長データ
可視光(水素のα線付近)

この記事が掲載されている国立天文台ニュース

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