分光宇宙アルバム

10ヨウ素分子とG型巨星のスペクトルと太陽系外惑星系探索

我々の住む地球は広大な宇宙の中でどのような存在なのかという問いかけは、広く一般社会でも語られ始めた人類の普遍的な知的欲求と言ってよいだろう。その問いかけに答えるには、太陽以外の星にどのような惑星系が存在しているのか、惑星系が作られる条件は何か、生命の発生はどのようにして起こるのか、などなどの広汎な研究が必要となる。

1995年に最初の太陽系外惑星候補が51Pegに見つかって以来、系外惑星系に関わる研究は、まさにゴールドラッシュの様相を呈している。我が国でも多くの研究者が各方面から系外惑星系の研究に日夜取り組んでいる。惑星探索には幾つかの手法があるが、視線速度測定(ドップラー)法による探索は、日本では岡山から始まった(天文月報2004年6月号参照)。ヨウ素分子の引き起こす、おびただしい数の電子遷移振動回転吸収線を高精度の波長標準として利用することで、通常の高分散分光観測では達成不可能な、高精度の視線速度測定を実現する。実際には観測されたスペクトルデータの精密なコンピューターモデリングが必要不可欠である。そして忍耐強く地道に観測を続けていく精神力も要求される。完成直後の可視高分散分光器HIDESに、これらの要件が整った2003年、最初の惑星候補がG型巨星HD104985に検出された。2007年には散開星団にある星として初めて、G型巨星εTau(約3太陽質量)が惑星候補を伴うことが明らかになり、惑星系の年齢を与える道筋が示された。2011年1月現在までに14の惑星あるいは褐色矮星の候補が岡山で検出されてきた。データの蓄積に伴い、今後は多重惑星系や雪線を超える惑星系の検出が期待される。

補足解説G型巨星とA型矮星

2009年に2つのA型矮星で直接撮像により惑星候補が検出され話題になった。もっぱら岡山での惑星探索の対象となっているG型巨星はA型矮星の将来の姿である。G型巨星の惑星系とA型矮星の惑星系との比較対照は極めて興味深いだろう。また、ドップラー法により惑星系が見つかっているG型巨星を、今後は高精度のコロナグラフ観測で調べることができれば、G型巨星の惑星系を星に近い所から遠い所まで網羅的に調べられる。そうすると、太陽の2~3倍の質量の星のまわりの惑星系の全体的な姿が明らかになっていくであろう。

図1:散開星団中の星としては初めて惑星候補を伴っていることが明らかになったおうし座ε星(εTau)。おうし座の頭の部分に位置するヒアデス星団に属していることが知られている。散開星団の星はほぼ同時期に生まれたと考えられ(ヒアデスの場合は約6億年前)、惑星候補に対して初めて精度よい年齢の上限を与えることができた。
図2:HIDESによるヨードセルを通した連続光ランプ波長5500Å付近のスペクトル画像。おびただしい数のヨウ素分子(I2)電子遷移振動回転吸収線が現れている。実際の観測では、これが星のスペクトルに焼き込まれる。
図3:上段から、実験室の超高分解能分光器により取得されたヨウ素分子の吸収線スペクトル、基準の型として使われた星のスペクトル、ヨードセルを通してHIDESで取得された星のスペクトル(点が観測、線がモデル)の一例(Sato et al. 2002, PASJ, 54, 873)。一番下はモデルと観測の残差。

記事データ

公開日
2013年3月4日
天体名
太陽系外惑星
観測装置
高分散エシェル分光器HIDES+ヨードセル+精密コンピューターモデリング+忍耐力
波長データ
可視光線

この記事が掲載されている国立天文台ニュース

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