分光宇宙アルバム

著者:田実晃人

この連載企画で読者のみなさんに紹介したかったこと

ものすごく大雑把にいえば、宇宙は星と星以外の物質(星と星の間に漂うガスや塵など)によって構成されています。
そうした星やガスなどが多く集まっている集合体が銀河であり、さらにその銀河の集まりが銀河団…となるわけです。
今回話題とした惑星状星雲は、星がその一生の終わりに自身を構成している物質を放出して空間に漂うガスや塵に戻ろうとしている天体です。
そのようにして放出されたガスが多く集まれば、またその中から星が生まれるということになり、まさに宇宙空間では輪廻転生がなされていることになります。

ただし、ここで放出しているガスは元の星ができたときのものとそっくり同じままのものというわけではありません。
星の内部で一生かかって行われてきた核融合反応によってできた重い元素を含んでいるのです。
このように、星が自分が居たという証拠を次の世代に残していき、それが繰り返し積み重ねられていくことを、私たちは化学進化と呼んでいます。
同じようにこの化学進化の舞台となっている天体が超新星爆発です。
超新星爆発は惑星状星雲となる星よりも若くて重い星が起こす現象で、まき散らす物質の量や周囲への影響もずっと大きくなります。
爆発した天体は一時的に非常に明るくなるため、ずっと遠くの銀河で起きたものまで多くの天文学者によって調べられています。
一方、惑星状星雲の化学進化への影響も無視していいものではありません。
元素の中に爆発を起こさない軽めの星がじわじわと年老いていく中でしか作られないようなものがあると考えられています。
またごく一部ですが、銀河系の誕生とほぼ同時にできたようなとても古い星からできた惑星状星雲が存在するのも興味深いところです。
こうした天体を調べることで銀河系の歴史を解き明かそうとしていることを知っていただきたいと思いました。

こと座の環状星雲(M57; リング・ネビュラ)などに代表される惑星状星雲は明るいものなら10センチメートル程度の望遠鏡でもわかるため、実際観望会などでご覧になる機会も多いかと思います。
我々の太陽も数十億年後の遠い将来にこのような惑星状星雲を経て一生を終える可能性が高いと考えられています。
我々の人生よりも一億倍ほどの時間スケールで繰り返される輪廻転生に思いを馳せて望遠鏡を覗いてみるのも楽しいのではないでしょうか。

現在の研究とこれから研究してみたいこと

私は、これまですばる望遠鏡のサポートアストロノマとして、常に観測の最前線で働いてきました。
今後もその経験を活かし、TMTなどの次世代の望遠鏡計画に参加していきたいと考えています。
そして、それらを利用してアンドロメダ銀河やさらに遠くの銀河にある惑星状星雲を詳細に調べ、それぞれの銀河の生い立ちを探求していければと思っています。

著者データ

氏名
田実晃人
所属
ハワイ観測所
職名
サポートアストロノマ
専門分野
観測天文学、恒星物理学

* 2013年6月現在