分光宇宙アルバム

著者:馬場彩

この連載企画で読者のみなさんに紹介したかったこと

宇宙が生まれた137億年前、宇宙には水素やヘリウムなど軽い元素しか存在しなかったと言われています。しかし、今現在我々の周りには炭素や酸素、カルシウム、果ては鉄や金など、多種多様な元素に取り囲まれています。このような多種多様な世界は、多くは星が死ぬ時の爆発がまき散らした元素によって作られたと思われています。どのような元素が、どんなふうに、どのくらいまき散らされたのか、今まさに研究が進みつつあります。日本の5番目のX線天文衛星「すざく」も世界の先鋒をきって研究を進めています。

X線天文学というのは聞き慣れない方も多いと思います。星の中にはあまりに高温・高エネルギーなので、出す光が可視光よりずっと高エネルギー・短波長のX線になるものがあります。星の爆発の残骸はあまりに衝撃波の速度が速く(秒速3000キロメートル程度)、温度は数百万度から数千万度にまで達するため、X線で強く輝くのです。そこで、「すざく」のようなX線天文衛星が活躍することになります。

「すざく」は、地上でも最近話題のレアメタルであるクロムとマンガンを発見し、星の中でどのくらい元素が作られているのか、そのうちどの程度が宇宙空間にばらまかれているのかを世界で初めて示しました。あまり聞き慣れない「すざく」衛星も世界的な成果をたくさんあげるために頑張っていることを、読者のみなさんに紹介したいと思いました。

現在の研究とこれから研究してみたいこと

星の死は、元素を宇宙に供給する以外にも、宇宙の進化に様々な役割を果たします。熱エネルギーや乱流の供給、そして宇宙線の生成などです。宇宙線は自然放射線の一種で、飛行機に乗ると多く放射線を浴びる、というのは宇宙線が降ってきているためです。これらがどのように超新星残骸で作られ、宇宙空間へと放出されているのか、「すざく」衛星をはじめとするX線天文衛星を用いて研究を続けています。

また、さらに未来を見据えて、日本の次世代X線天文衛星ASTRO-Hの開発に参加し、打ち上げに向けて日々頑張っています。ASTRO-Hに搭載される分光装置Soft X-ray Spectrometer (SXS)はX線天文学者たちにとって「夢の分光装置」で、SXSが搭載されたASTRO-Hは、世界中の天文学者たちが長年待ち望んでいる衛星です。打ち上げ後にどんな天体を観測し、どんなものが見えてくるのか、今からわくわくしています。

著者データ

氏名
馬場彩
所属
青山学院大学 理工学部 物理数理学科
職名
准教授
専門分野
高エネルギー宇宙物理学

* 2013年7月現在