分光宇宙アルバム

20塵に埋もれた活動的な超巨大ブラックホールを赤外線分光観測で探る

銀河と銀河の衝突・合体は、宇宙では頻繁に生じている。そこでは、激しい星生成活動や、激しく質量降着する活動的な超巨大ブラックホールに起因する活動銀河中心核(Active Galactic Nucleus : AGN)の影響によって、周囲の塵が暖められ、赤外線で明るく輝くと考えられる。しかし、合体銀河では、大量のガスや塵が銀河の中心核付近に短時間で集中し、サイズ的に小さなAGNが存在していても、周囲のほとんどすべての方向を塵に隠されてしまう(図1)。そのような埋もれたAGNを可視光線の観測で研究することは極めて困難である。

図1:塵に埋もれて存在するAGN(=激しく質量降着している活動的な超巨大ブラックホール)の模式図。

そこで、塵に埋もれているAGNのエネルギー的寄与を、星生成活動ときちんと区別して正しく評価するためには、塵吸収の影響の小さな波長での観測が必須となる。波長が3μmより長い赤外線での分光観測は、その目的に最も有効な手法の一つである。波長が3μmより長い赤外線には、炭素がベンゼン状に集まった芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydro-carbon:PAH)の輝線が存在する。PAHは銀河の星間空間に広く分布していることが観測から明らかになっているが、星生成活動の場合は、電離領域と分子ガスの境界に発達する光解離領域で、星からの遠紫外線光子によって、PAHが破壊されることなく励起されるため、強いPAH輝線が観測される。ところが、AGNの場合は、X線放射が強いためにPAHが破壊されてしまい、PAHの輝線は見えない。代わりに、サイズが大きくて壊されにくい塵からの滑らかな連続光放射が強くなる。サイズ的に小さなAGNが大量の塵に覆われて存在すれば、視線方向手前の塵による吸収フィーチャーが強く観測される。このように、波長が3μmより長い赤外線での分光観測から、銀河の塵の奥深くに隠されたエネルギー源を識別することができるのである。

太陽の1兆倍以上の赤外線光度を持つ、二つの合体赤外線銀河(図2)を、IRCS分光器を用いて、波長2.8-4.1μmのLバンドで分光観測した結果が図3である。可視光では同じような合体銀河に見えていても、赤外線で分光観測すればスペクトル形状が大きく異なることがわかる。

図2:赤外線銀河IRAS 08572+3915(左)、IRAS 20414-1651(右)の可視光線の画像(Surace et al. 1998 ApJ 492 116; Surace et al. 2000 ApJ 529 170)。矢印の銀河核を、赤外線でスリットでそれぞれ分光観測する(図3)と…。
図3:すばる望遠鏡IRCS赤外線分光器によって取得された赤外線スペクトル(Imanishi et al. 2007 AJ 134 2366; Imanishi et al. 2006 ApJ 637 114)。IRAS 08572+3915(上)は、星生成活動があれば観測されるはずのPAH放射が、検出できないほど弱い。代わりに波長3.4μm に炭素系塵による強い吸収フィーチャーが観測され、塵の奥深くに埋もれたAGNがこの銀河の光度を支配しているとする描象で自然に説明できる。IRAS 20414-1651(下)は、波長3.3μmに強いPAH放射があり、強力な星生成活動が存在していると考えられる。

補足解説アルマ望遠鏡も観測

強力なAGNが塵の奥深くに埋もれて存在すると赤外線分光観測で診断されたIRAS 08572+3915の方は、ALMA Cycle 0の提案が採択され、観測された。ALMAの観測波長である(サブ)ミリ波帯でも、AGNと星生成は異なる分子輝線の強度比を示すことが期待されているからである。結果は、他の星生成に支配された赤外線銀河とは違ったタイプの、塵に埋もれた強力なAGNに特有の(サブ)ミリ波分子輝線スペクトルが実際に得られた。赤外線にサブ(ミリ)波帯を組み合わせて、独自の信頼できる銀河のエネルギー源診断法を確立し、世界に提示していきたい。

記事データ

公開日
2014年12月9日
天体名
IRAS 08572+3915, IRAS 20414-1651
観測装置
すばる望遠鏡IRCS赤外線分光器
波長データ
赤外線(Lバンド)

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