分光宇宙アルバム

12最初の低温褐色矮星のスペクトル

褐色矮星とは、質量が太陽の8パーセント(80木星質量)以下で星になり損ねた星。星のようにガスと塵が収縮してできるが、中心温度が、水素燃焼の温度に達する前に、水素が圧力電離されてできた自由電子が縮退して、重力と縮退圧がつりあうために、収縮と中心温度の上昇が止まってしまいそのまま冷え続ける天体である。半径は、質量にあまり依存せず、80木星質量から、木星質量の天体まで、ほぼ木星半径程度である。褐色矮星が、低温度星と区別されるのは、表面温度が1800K以下とされていたが、そのスペクトルは、予想不可能であった。そして、1960年代より、あまたの候補が生まれては消えていった。我々は、コロナグラフを用いて主系列星より4等級まで暗い近傍天体を波長0.8ミクロンで探索した結果、1995年、太陽から18光年のところにある赤色矮星グリーゼ229の近傍7秒角(40天文単位)のところに暗い伴星を発見した。追観測で、近赤外線二次元スペクトルを見た観測者の一人 K.Matthews の第一声は、「こりゃ、木星だ」であった。実際、水蒸気とメタンの吸収バンドからなるこの天体のスペクトルは、星よりも、メタンによる木星の反射スペクトルに近かった。メタンが現れるのは、1000K以下の天体であると東大の辻 隆教授が過去に予想されていて、この新天体グリーゼ229Bは、太陽系外初の1000K以下の天体となった。グリーゼ229Bは、新しいスペクトル分類T型矮星の初めての天体となったが、このTは、辻(Tsuji)のTもかけてる。

補足解説T型矮星のその後

褐色矮星の探索は、伴星型の探索よりも、孤立天体の広域サーベイが主流となる。2ミクロンスカイサーベイ、スローンディジタルスカイサーベイにつづいて、英国赤外線望遠鏡による広域深サーベイが、より低温なT型矮星の検出に成功している(例:国立天文台ニュース2008年10月号の石井、田村による記事)。T型矮星の近赤外線による分類は、600Kくらいまでが限界で、それより低温の天体の分類には、5ミクロン帯の中間赤外線の測光が必要であるようだ。現在知られている最も低温な褐色矮星は、近赤外と中間赤外のフラックスの比が、3:7である。この観測には、スピッツアー宇宙望遠鏡が使われている。

図1:波長0.8ミクロンで撮像したグリーゼ229B。左が、パロマー山1.5m鏡でとった発見のイメージ。右がハッブル宇宙望遠鏡で1年後にとったイメージ。
図2:可視光と赤外線でのグリーゼ229のイメージ。左上が0.6ミクロン、右上が0.8ミクロン、左下が0.9ミクロンで、これらは、パロマー山1.5m望遠鏡にとりつけた星像補正装置のついた可視のコロナグラフによるもの。主星Aは、焦点面のマスクに隠されている。また回折光は、瞳面のマスクで抑制されている。右下は、5m望遠鏡にとりつけた赤外線撮像分光装置による2ミクロンのイメージで、主星Aは、焦点面の冷たいマスクに隠されている。(Nature vol.378, 30 November 1995)
図3:Hバンドの二次元スペクトル。縦軸は、空間幅5.4秒角、横軸は、波長1.5から1.8ミクロンまでをカバー。上方の暗い帯は、望遠鏡のスパイダーで回折された主星Aのスペクトルで、Hバンドを一様にカバーする。それに対して、下方の暗い帯伴星Bのスペクトルは、1.6ミクロン以下に強いピークをもち、長波長側にフラックスが非常に少ない。これは、いかなる恒星にも見られない特徴である。
図4:グリーゼ229Bと木星のスペクトル。木星のスペクトルは、比較が容易なように、縦に移動させている。上方の縦棒は、メタンバンドの位置を示している。(図3ともScience vol.270, 1 December 1995)

記事データ

公開日
2013年7月19日
天体名
褐色矮星グリーゼ229B
観測装置
パロマー山天文台赤外線撮像分光装置
波長データ
近赤外線

この記事が掲載されている国立天文台ニュース

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