分光宇宙アルバム

04天体スペクトル観測 温故知新

図1:各スペクトル型を代表する星のスペクトル画像。天体名は左側に、スペクトル型は右側に示されている。OからMまでは天体の温度の系列(O型が最も高温)であるが、R、NやSは化学組成が特殊なために別に分類されたものである。データは岡山天体物理観測所で取得されたもので、図は『宇宙スペクトル博物館』(粟野諭美ほか、裳華房)による。

19世紀に分光(スペクトル)分析が天体観測に用いられるようになって、天文学は一変しました。従来はもっぱら天体の位置や形状を調べることによって宇宙の姿を把握しようと試みられてきましたが、スペクトル観測により、人類は太陽をはじめとする星がどのような物質からできているのか知り、宇宙が膨張しているという認識を得るにいたりました。

スペクトル観測によって得られるのは、大きく分けて天体の組成と運動についての情報です。スペクトル線の強さ(ある波長での光の放射や吸収の量)からは、天体の組成、つまり光の放射や吸収に関与する原子や分子がどのくらいあるのか、ということがわかります。これには元素レベルでの組成だけでなく、天体の温度や圧力などの状態についての情報も含まれます。一方、観測者からみて天体が遠ざかったり近づいたりすると、いわゆるドップラー効果によって光の波長が延びたり縮んだりします。つまり、スペクトル線の波長のずれから、天体の速度(観測者からみた方向の速度で、視線速度とよばれる)が測定できるのです。

星のスペクトル分類と褐色矮星

20世紀前半に活発に行われた研究のひとつが、恒星のスペクトル分類です。点にしか見えない恒星は、形状から分類することはできません。しかしスペクトル観測を行ってみると、水素をはじめとする様々な元素による吸収線がとらえられ、天体による違いが明らかになります。当初は経験的に分類され、アルファベットがつけられていたものがやがて整理され、スペクトル分類の意味するところも明らかにされてきました。図1にはこの分類によって定められたスペクトル型を代表する星のデータを示しています。この系列は主に星の表面大気の温度に対応していることがわかっています。

20世紀末になると、もっとも低温度の恒星として分類されていたM型星よりもさらに低温の星が見つかってきました。これらは、内部で核融合によってエネルギーを作り出すことのできない、褐色矮星とよばれる天体です。褐色矮星についても、その温度系列をよく表すスペクトルの特徴が調べられ、今ではL型、T型という分類(そのなかにL1、L2、L3…といった細分類がある)が定着しています。これらの天体は、低温のために可視光では非常に暗く、分類は赤外線波長にみられる水蒸気やメタンといった分子のスペクトルによって行われています。長い歴史をもつ星のスペクトル分類は、新たな天体の発見とともに発展しているのです。

星の視線速度と太陽系外惑星

一方、スペクトル線と天体の視線速度の関係は、図2に示した木星の観測例によく表れています。木星の自転周期はわずか10時間で、赤道付近は毎秒12キロメートルもの速さで回転しています。これにより、木星を横からみる位置でスペクトルをとると、近づく(遠ざかる)側でスペクトル線の波長が短く(長く)なる様子がみられます。

ドップラー効果を用いた天体の視線速度の測定は、天文学のあらゆる分野で用いられているといっても過言ではありませんが、その精度を極めていった結果が20世紀末の太陽系外惑星の発見です。今ではさまざまな方法で太陽以外の星のまわりの惑星が調べられるようになってきていますが、依然としてもっとも有力な方法は、惑星の重力によって中心の星が揺さぶられる、その周期運動を測定することによって惑星の存在をとらえ、軌道周期などを割り出すという研究手法です。測定精度は年々向上し、毎秒1メートルというわずかな速度変化をもとらえられるようになってきています。

図2:木星のスペクトル画像。図の上のほうが木星表面のうち地球に近づく側で、下のほうが遠ざかる側(右側のイラスト参照)。これに対応し、鉄(Fe)などのスペクトル線の波長が変化し、図では線が傾いて見える。上に矢印をつけたのは地球大気による吸収スペクトル線で、これは速度変化がないためにまっすぐになっている(出所は図1と同じ)。

記事データ

公開日
2011年11月16日
天体名
各スペクトル型を代表する天体および木星
観測装置
岡山天体物理観測所188cm反射望遠鏡
波長データ
可視光線

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