この連載企画で読者のみなさんに紹介したかったこと
宇宙に数多く分布する銀河の中心には、太陽質量の100万倍以上の超巨大ブラックホールがほぼ普遍的に存在することが観測からわかって来ています。ガスをたくさん持つ銀河同士の合体によって、元々存在していた超巨大ブラックホールに大量の物質が落ち込み、ブラックホールの質量は激しく成長すると考えられています。その際、超巨大ブラックホールの周囲に形成される円盤状の構造(降着円盤)から、大量の放射が発生し、観測的に研究できるようになります。しかし、このような合体中の銀河の中にある超巨大ブラックホールは、大量の塵に隠されているために、観測が容易で広く用いられている可視光は、塵吸収によって光量が大きく弱められ、正しく研究することができないのです。塵による吸収の影響の小さな赤外線の出番です。私たちは、赤外線の分光観測から、そのような塵に埋もれた、活発に物質を飲み込んでいる超巨大ブラックホールをきちんと研究する手法を見つけ出し、性質を明らかにすることに成功してきました。世界の誰もが思いつかない手法を開発し、それを用いて宇宙の未解明の問題を解決するという、独自のユニークな研究を行うのが重要であるということが、伝えたいことです。
現在の研究とこれから研究してみたいこと
現在は、国立天文台のALMA望遠鏡を用いて、波長がより長い(サブ)ミリ波の観測で、これまで赤外線で行って来た私たちの研究結果を追確認し、より強固で異論の余地のない結論を提示することを目標に研究を進めています。
塵に埋もれて可視光線では見つけられないような、活発に物質を飲み込んでいる超巨大ブラックホールは、周囲の銀河のガスを吹き飛ばしたり暖めたりして、銀河の性質に大きな影響を与えると考えられているため、それをきちんと理解することは、宇宙において銀河がどのように進化してきたかを正しく理解するために非常に重要です。赤外線分光観測に基づく私たちが見出した手法は、本目的に極めて有効なので、銀河形成活動がピークを示すより遠方宇宙に適用していきたいと考えています。
また同時に、すばる望遠鏡の可視光線の広視野カメラ(Hyper Suprime-Cam)による大規模で系統的な観測が2014年に開始される予定であり、宇宙の果ての近くの、超巨大ブラックホールに激しく物質が落ち込んで非常に明るく輝いている天体(ただし、塵に隠されていないもの)がたくさん見つかると見積もられています。これらの天体を赤外線分光観測すれば、超巨大ブラックホールの質量を求めることができ、宇宙初期にどのようにして超巨大ブラックホールが形成され、成長してきたかについて、重要な研究をすることができます。2-3年以内に、このテーマに関して、インパクトのある成果を出したいですね。
今後も、宇宙の超巨大ブラックホール形成の起源に迫れるような研究をしていきたいと考えています。
著者データ
- 氏名
- 今西昌俊
- 所属
- ハワイ観測所
- 職名
- 助教
- 専門分野
- 赤外線天文学・銀河天文学
* 2013年7月現在