分光宇宙アルバム

06太陽磁場を測る

黒点に代表される太陽表面に見られる構造や、太陽大気で発生する様々な活動現象は、磁場によって引き起こされる。では、強力な磁場が太陽に存在することは、どのようにしてわかったのか? それには「ゼーマン効果」を使う。磁場がないときには1本だったスペクトル線が、磁場の中では複数のスペクトル線に分裂する現象である。実際に、太陽のスペクトル線をみると、黒点の外では1本だったスペクトル線が、黒点の中では3つの谷に別れていることが分かる。ゼーマン効果によると、波長方向の分裂の大きさは磁場の強さに比例する。これを使って磁場の強さを測定すると、磁場は3000ガウスもの強さを持っていることが分かる。1ガウスより弱い地磁気と比べると、はるかに強い磁場が太陽黒点には存在するのである。

「ひので」に搭載された可視光望遠鏡の特徴の1つは、精度の高い磁場計測ができることである。磁場の強さを測るだけでなく、磁場の向き(ベクトル)を測ることも重要である。そのために、ゼーマン効果で発生する微弱な偏光を測定する偏光分光観測によってスペクトル線を精査し、太陽表面の磁場ベクトルの分布を求めている。

「ひので」可視光望遠鏡で観測した黒点から放射されるスペクトル

図1:「ひので」可視光望遠鏡で観測した黒点から放射されるスペクトル。黒点の中では強力な磁場によってスペクトル線が3つに分裂する。「ひので」で観測している2本の鉄の吸収線のうち、短波長(左)側のスペクトル線よりも長波長(右)側のスペクトル線の方がゼーマン効果に対する感度が高いため、スペクトル線の分裂がよりはっきりと見える。

補足解説黒点のねじれと太陽フレア

太陽表面の磁場ベクトルの分布が分かると、どれだけの磁気エネルギーが太陽大気に蓄積されているかを把握することができるようになる。蓄積された磁場のエネルギーはいずれ解放され、巨大な太陽フレアを引き起こす。2006年12月に観測されたこの黒点では、1つの半暗部の中に逆の極性を持った暗部が隣り合って存在しており、その間を台風のようにうずを巻いた磁場がつないでいるのが分かる。これは、膨大な磁気エネルギーが蓄積されている兆候であり、実際にこの観測が行われた1日後、巨大な太陽フレアが発生した。

図2:2006年12月に「ひので」可視光望遠鏡によって観測された黒点の放射強度(上)とゼーマン効果を使って求めた磁場ベクトルの分布(下)。図1のスペクトルは上図に示した(A), (B), (C), (D)の各点において観測されたもの。

記事データ

公開日
2011年11月16日
天体名
太陽
観測装置
「ひので」可視光望遠鏡
波長データ
可視光線

この記事が掲載されている国立天文台ニュース

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