分光宇宙アルバム

11デブリ円盤天体HD 165014のスペクトル

街明かりの少ない場所では、日没後の西の空、あるいは夜明け前の東の空に、地平線からふわっと伸びる光芒が見えることがある。黄道光――太陽系の彗星や小惑星から放たれたダストが太陽光を散乱して光っている姿だ。太陽以外の恒星にも「黄道光」を持つものがあり、デブリ(残骸)円盤と呼ばれている。デブリ円盤のダストは、惑星が作られる過程で微惑星同士が衝突する際にまき散らされた破片であると考えられており、恒星の周囲で温められたダストは熱放射により中間~遠赤外線で明るく光る。1980年代にIRAS衛星の観測でベガが最初のサンプルとして見つかって以降、最近も日本の赤外線天文衛星「あかり」などによる赤外線広域探査によって、いくつものデブリ円盤候補が見つかっている。

さらに、デブリ円盤ダストから来る熱放射の赤外線スペクトルには、鉱物ダスト特有の凹凸パターンが焼き込まれており、惑星の材料物質が何で出来ているのかを診断する手がかりになる。最近のスピッツァー宇宙望遠鏡の赤外線分光器IRSによる分光観測から、デブリ円盤ダストはどうやらバラエティに富む組成をしているらしいということが分かってきた。例えば「あかり」が見つけたデブリ円盤天体HD 165014には、結晶質の輝石ダストが他の天体と比較にならないほど豊富に存在していることが明らかになった。二酸化ケイ素ダストが卓越している天体も見つかっている。今後、実験室での鉱物測定や太陽系内天体の観測などと比較しながら、多様なダスト種が生成された過程や母天体(惑星の材料)の性質に迫る研究の進展が期待される。

宇宙の「デブリ」というと厄介者扱いされてしまいがちだが、デブリ円盤は惑星誕生の秘密を調べる上で非常に興味深い天体である。

補足解説ダストの「濃さ」に注目!

デブリ円盤中のダストの「濃さ」の指標として、中心星に対するダスト放射の光度比が使われる。2010年に見つかったHD 165014のダスト放射光度比は太陽系内ダストの1000倍以上の大きさ。最も有名なデブリ円盤・がか座ベータ星に匹敵するトップクラスの濃さだ。それほどの天体がこれまで知られていなかったのは、HD 165014が銀河系中心方向にあり、周囲にある数多くの天体に埋もれてしまっていたためだ。IRASよりも高精度な「あかり」の全天サーベイ、そしてすばる望遠鏡による高解像度での確認観測が発見の決め手であった。デブリ円盤におけるダストの「濃さ」も大事な情報だ。HD 165014では微惑星帯が力学的に不安定な状態にあり、激しい勢いで衝突が進んでいるのかもしれない。

図1:「あかり」によるHD 165014の中間赤外線(波長9マイクロメートル)画像。画像の大きさは0.1度×0.1度。
図2:HD 165014のスペクトルエネルギー分布。赤外線域では中心星放射成分(破線)よりもはるかに強い放射が見られるが、これがデブリ円盤からの熱放射である。
図3:スピッツァー宇宙望遠鏡によるHD 165014の中間赤外線スペクトル(赤)。垂線で示した位置に見られる顕著な凹凸パターンが、結晶質輝石(青)と一致する。

記事データ

公開日
2013年4月5日
天体名
HD 165014
観測装置
スピッツァー宇宙望遠鏡 InfraRed Spectrograph(IRS)
波長データ
中間赤外線

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