分光宇宙アルバム

著者:平松正顕

この連載企画で読者のみなさんに紹介したかったこと

一般になじみのない電波天文学に私が初めて触れたのは、大学2年生の夏、野辺山45m電波望遠鏡を使った観測実習でのことでした。観測天体はM42オリオン大星雲、観測したのは水素原子とアンモニア分子が放つ電波。手探り状態で解析を進めて出てきた結果の図には、見慣れた可視光の写真とは違う、ガスの分布がはっきりと見えていました。そしてその電波スペクトルから、ガスの温度や密度、動きまでわかってしまう。あぁ、電波のスペクトルにはなんと豊かなメッセージが込められていることか。私はすっかり電波天文学に魅せられてしまいました。

今回の連載では、こうして私が体験した「電波」の「スペクトル」という、二重になじみのないトピックに秘められた面白さをご紹介したい、と考えました。特に、可視光では見ることのできない極低温の星間物質=星の材料の観測には、この電波の分光観測が多大なる威力を発揮します。アルマ望遠鏡の登場により、電波天文学の観測画像も可視光観測並みに解像度の高いものが得られるようになりますが、それでも画像を解釈するためには分光データを読み解くことが欠かせません。目には見えない宇宙を手探りする面白さを、ぜひ感じてみてください。

現在の研究とこれから研究してみたいこと

現在の私は、太陽程度かそれよりも質量の小さな星ができる過程を、電波望遠鏡を用いて探っています。星は、太陽の数パーセントの質量しかないものから100倍を超える質量をもつものまで、非常に大きな多様性があります。この質量の多様性の原因はどこにあるのか、特に太陽よりも質量の小さな星はなぜそのような小さな質量しか持ちえなかったのか、を明らかにしたいと思っています。これまでに野辺山45m電波望遠鏡、ハワイのSMA、チリのASTEを使って若い星や星の卵たちを観測してきましたが、やはり次はアルマ望遠鏡で、この謎に迫りたいですね。

著者データ

氏名
平松正顕
所属
チリ観測所
職名
助教
専門分野
電波天文学

* 2013年7月現在