この連載企画で読者のみなさんに紹介したかったこと
連載「分光宇宙アルバム」の中で、本稿では「多天体分光観測」を紹介しました。一度にたくさんの天体を分光することによって、その天体のより普遍的、一般的な性質を調べる機能、それが「多天体分光」です。
例えば、あなた1人を見ても日本人の一般的な性格というものはつかめませんが、北海道から沖縄まで老若男女、数多くの日本人を調べることによって初めてそれは見えてきます。こうした数多くのサンプルを統計的に調べ、その一般的性質を明らかことが天文学ではしばしば求められます。
特に1個見つけるのもたいへんな遠方銀河の性質となると、このアプローチのしかたは重要になってきます。今回紹介した赤方偏移6.5の銀河についてはその一般的な性質だけでなく、少し手前の銀河との統計的な差があることから、銀河そのものではなく宇宙空間の電離度が変化(宇宙の再電離と呼ぶ)していることがわかりました。このような成果はまさに多天体分光でしか得られない結果と言えます。
現在の研究とこれから研究してみたいこと
この研究以降も、わたしたちのすばるの遠方銀河探査は続けられ、最も遠いもので、赤方偏移7.215(地球からの距離129.1億光年)先の銀河を見つけました。またもう少し手前、といっても赤方偏移6(127.1億光年)の距離のところでも同様な多天体分光を精力的に行い、たくさんの銀河が集中した領域=初期銀河団を発見しました。さらに研究対象をクェーサーにまで広げながら、2014年から開始するハイパーシュープリームカムによる系統的探査で初期宇宙の姿を明らかにしたいと考えています。
また本稿図のキャプションで書いた「赤方偏移」のもっとわかりやすい日本語名…学生の課題に出してみたりもしたのですが、未だに名案が思い当りません。これは宇宙の謎より難しい宿題ですね。
著者データ
- 氏名
- 柏川伸成
- 所属
- TMT推進室
- 職名
- 准教授
- 専門分野
- 銀河天文学
* 2013年11月現在