分光宇宙アルバム

著者:前田啓一

この連載企画で読者のみなさんに紹介したかったこと

驚き、そして納得。川端さんが観測した超新星2005czのすばる望遠鏡での後期スペクトルを見たときの感想です。この「変わり種」の超新星、その正体が何であるのかしっぽをつかませなかったのですが、ついにその解明の鍵を手に入れたと思った瞬間です。

超新星爆発後半年以上経過すると爆発膨張に伴い「すかすか」になり、そのスペクトルは親星や爆発機構の解明に非常に重要です。このことを指摘した理論研究をいくつか論文として発表し、川端さん達と共同で暗くなった「後期」超新星をあえて分光観測するという一風変わった(困難な)観測をすばる望遠鏡で進め、多くの面白い結果を得ています。超新星2005czはその中でもハイライトの一つです。今では同様の超新星がいくつも発見され、「カルシウムの強い」(Ca-rich)超新星として世界中でさらに研究が進められています。すばるによる観測がなかったら、このタイプの超新星がこれほど注目を浴びることはなかったでしょう。

本稿では、理論予測から新たな手法の観測が組織され(後期分光観測)、さらにその観測が一見それまでの理論の範疇にないデータを提供したり(酸素・カルシウム輝線にみる特異性)、またそれが理論の基礎に立ち返ってみると実は合理的に説明できる(比較的低質量の星の進化)というように、理論と観測が絡み合って研究が進展していく様子を伝えたいと思いました。同時に、様々な観測が新たな発見につながる天文学ならではの醍醐味を伝えられたら良いと思います。

現在の研究とこれから研究してみたいこと

様々な波長・手法による超新星の理論・観測両面からの研究を推し進めています。まだまだ謎の多い、超新星の親星と爆発機構、あるいはその関係について研究を進めながら、同時にどのような超新星がどのように元素・塵粒子・宇宙線を生成して宇宙にばらまいてきたのかを突き止めたいと考えています。

超新星2005czの研究での興奮も一因となり、また川端さんをはじめとする観測のプロの方々に手取り足取り指導していただいたこともあり、今では理論研究を進めながらも観測研究にもどっぷりとつかるようになりました。すばる望遠鏡では、現在Ia型超新星を中心に可視・近赤外での後期分光観測を推し進めています。これにより、Ia型超新星の親星と爆発機構を突き止め、宇宙論で用いられる際の「標準光源」としての性質を解明したいと思っています。また、近赤外分光からは可視では見えていなかった元素、あるいは塵粒子の存在に迫ることができます。

近年は電波やX線・ガンマ線の理論研究も進めています。超新星爆発における元素や宇宙線生成過程を突き止めるためのいくつかの手法を考案することができたため、現在これらの低・高エネルギー領域での超新星・超新星残骸の観測提案を出し始めたところです。幸運にもALMA望遠鏡などで採択していただいたので、今後は様々な波長域における観測から超新星の性質を包括的に理解していきたいと考えています。

著者データ

氏名
前田啓一
所属
京都大学 理学研究科 宇宙物理学教室
職名
准教授
専門分野
理論・観測天文学

* 2013年10月現在