この連載企画で読者のみなさんに紹介したかったこと
星のように、生まれながらも、その質量が小さすぎて、恒星のように、恒常的に輝く星になり損ねた星、それが褐色矮星です。理論的には、1963年に、米国のKumarと、日本の林と中野によって、その存在が予想されていました。しかし、暗い上に、低温度の大気のスペクトルの予測が困難で、褐色矮星の探索は、暗中模索の状態でした。約30年、数多くの候補天体が生まれ、消えてゆきました。
私は、1992年から、カリフォルニア工科大学の上級研究員でしたが、そこでの仕事は、パロマー山1.5メートル鏡に搭載した、ジョンズホプキンス大学のコロナグラフを用いて、サイエンスの成果を上げることでした。コロナグラフとは、明るい主星を隠して、その周辺の暗い構造や暗い天体を検出する装置です。私が選んだサイエンスプログラムは、太陽近傍星の周りの褐色矮星伴星の探索でした。計算上は、一番暗い恒星の4パーセントの光度をもつ天体までが、検出可能でした。初めのうちは、伴星候補も見つからず、つらかったのですが、1994年10月に、グリーゼ105Aという星の周りに、太陽の9パーセントの質量をもつ伴星が見つかりました。同じ観測期に、グリーゼ229という星の近傍に、0.8ミクロンと0.9ミクロンの色が非常に赤い伴星の候補も見つけました。これは、本当の伴星ならば、褐色矮星の有力候補です。一年待って、主星と伴星候補が星野中を同様に動いていることを確認して、また伴星の光度が最も暗い恒星の6パーセントであることを求め、褐色矮星の発見を公表しました。
現在の研究とこれから研究してみたいこと
褐色矮星の延長上に、太陽系外の木星型惑星の直接撮像をしようと考えた時、問題になるのは、主星と惑星の見かけ上の距離と、系外惑星系の年齢です。近くて、若い系外惑星ほど、見つかり易いのです。私は、太陽近傍の星の銀河系内での運動から、若い星を拾い出す方法を見出して、直接撮像のターゲット星を選びました。それから、軽くて小さいM型矮星の場合、主星が惑星に振られやすく、主星の視線速度の変動から、惑星が間接的に見つかり易いのですが、M型矮星自身の性質があまりよくわかっていません。そこで、低温であるM型矮星の性質を近赤外線分光で調べようとしています。
この他、本の執筆もおこなっていて、「物理を学習する大学生・院生のガイドブック」(吉岡書店)と「柿本人麻呂と小野小町」(武蔵野書院)を出版しました。
著者データ
- 氏名
- 中島 紀
- 所属
- 太陽系外惑星探査プロジェクト室
- 職名
- 助教
- 専門分野
- 褐色矮星、太陽系外惑星
* 2013年4月現在