01たいへんお得な「マルチスリット分光」
天体の物理状態を調べるには、天体から届く光を分光分析する(スペクトル観測を行う)のが有効です。これは天体からの光をプリズムや回折格子などの光学素子を通して波長ごとの光の強度分布を調べるということです。要するに、天体がどんな色をしているのか詳しく見るということです。そのためには、望遠鏡焦点にスリットを置き、そこを通った光だけを分析することになります。
スペクトル観測は100年以上の歴史をもっています。その目的や原理は変わらないものの、観測技術は進歩し続けています。古くから行われている観測手法は、固定されたスリットに、望遠鏡を制御することによって天体の光を導き、観測を行うというものです。しかしこれでは、スリット以外の部分の光は捨てられてしまいます。望遠鏡の視野内に観測したい天体が多数ある場合には、これはたいへんもったいないことです。
そこで最近盛んになってきているのが、多数の天体のスペクトル観測を同時に行う「多天体分光」という方法です。その一つが、すばる望遠鏡微光天体撮像分光装置FOCASで用いられている「マルチスリット分光」です。他にもファイバーやレンズアレイを用いて視野内のいくつもの領域の光をとらえる技術が開発されています。
:不規則銀河M82の活動性を探る
ここで紹介する例は、不規則銀河M82(図1)のさまざまな領域のスペクトルを取得する観測です。図1のM82は、多色の撮像観測によって得られたもので、実際のFOCAS画像は、図2aのイメージとなります。
この銀河は活発な星形成と超新星爆発により高温の水素ガスが吹き出しているとみられています。銀河の場所ごとにその活動性がどうなっているか調べるために、この観測では26か所のスペクトルを取得しています。そのために、スリット(細長い穴)をあけたシートを用意します(図2b)。このシートはカーボンファイバー製で、レーザー加工装置を用いて、それぞれの観測にあわせて製作されます。このシートを分光器に装着し、観測を行うと図2cのように、多数のスペクトルが同時に取得されます。天体上のどこの部分のスペクトルを取得したのか示すために、図では3か所をピックアップして数字をつけてあります。
なお、実際に取得されるスペクトル画像は、見た目は単色です。スペクトルにすれば、異なる色の光は画像上で異なる場所に記録されるため、カラーで撮る必要がありません。図2cは、理解を助けるために後からスペクトル画像に波長を考慮して配色したもので、光の波長は図の横方向の位置によって決められます。
記事データ
- 公開日
- 2011年11月16日
- 天体名
- 不規則銀河M82
- 観測装置
- すばる望遠鏡FOCAS
- 波長データ
- 可視光