分光宇宙アルバム

09流星のスペクトル

流星は、地球大気に高速で飛び込んできた小さな塵粒が、衝撃加熱によって高温となり、塵粒から溶解した成分と、もともとの大気成分とが混じり合い、数千度という高温プラズマとなって発光する現象である。隕石落下を伴うような火球と呼ばれる大流星や、人工衛星の大気圏再突入の場合は、加熱された本体の連続光が検出されることもあるが、通常の流星でのスペクトルは基本的には輝線の集合である。流星本体起源であるカルシウムやマグネシウム、ナトリウム、鉄などの輝線と、主に大気起源である窒素や酸素などの輝線が目立つ。流星を観察すると、しばしば色が付いて見えるが、肉眼で感じる色は、こういった何種類かの輝線の組み合わせによるものである。

ただ、対地速度・突入角度の違いや、発光高度の差による物理・化学的環境の差、そしてもともとの流星体の個体差などによって、輝線の種類や強度比は大きく異なっている。最近では同じ流星群に属する流星でも、特にナトリウムなどの揮発性元素の含有量が異なっているらしいこともわかってきた。流星の母親である彗星との関係においても、難揮発性物質のサンプルとして、流星のスペクトルは注目されている。流星が過ぎ去った後、飛跡に沿って煙のような痕跡「流星痕」が残ることがある。数秒後には消えてしまう短痕と、数分から時には1時間近く発光し続ける永続痕とがあり、永続痕は窒素分子バンドとされているが、光り続けるメカニズムは完全に解明されたわけではない。

補足解説流星観測の難しさ

「はやぶさ」などの人工流星を除けば、流星観測の難しさは、いつどこにどの程度の明るさの流星が出現するか分からないという点と、発光時間が短いという2点に集約される。したがって、流星の分光観測は、たくさん出現するであろう流星群の時に、その予想される飛跡と分散方向が直交する分散を得るように装置を置き、ビデオのような時間分解能の高い記録を残しながら、出現を待つ「待ち受け観測」がメインである。しし座流星群の活動期には、これまでにない流星スペクトルデータが世界中で取得された。われわれのグループでも、しし座流星群でOH輝線を検出したり、うしかい座流星群の活動予測を期に、世界初の小規模流星群の分光データを取得するなどの成果をあげている。

しし座流星群に備えて開発した、UV-I.I-HTDV流星分光器
図1:しし座流星群に備えて開発した、UV-I.I-HTDV流星分光器。
しし座流星群の流星のスペクトル画像
図2:しし座流星群の流星のスペクトル画像。
しし座流星群の大火球
図3:しし座流星群の大火球。
しし座流星群の流星のスペクトル
図4:しし座流星群の流星のスペクトル。

参考文献

S. Abe, N. Ebizuka, H. Yano, J-I. Watanabe, J. Borovika, “Detection of the N+2 First Negative System in a Bright Leonid Fireball,” ApJ 618, L141-L144 (2005).

記事データ

公開日
2012年11月19日
天体名
流星
観測装置
UV-I.I-HTDV流星分光器
波長データ
紫外ー可視光線

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