分光宇宙アルバム

14球状星団の星 - 星団の組成は実は均一ではない

球状星団は、大きいものでは百万個もの星からなる星団で、銀河系ではそのほとんどが100億年以上前、つまり銀河系形成初期に誕生したものであることが知られています。星団の星の色と等級を図にプロットしてみると、いわゆるHR図における主系列や赤色巨星分枝がきれいに現れ、そこから星団の金属量(水素・ヘリウム以外の重元素量)や年齢が測定されます。

こういう星団は、ある時に同じ組成をもったガス雲から同時に生まれた、というのが一昔前の常識でした。これにもとづき、星のいろいろな性質を調べるのに利用され、「恒星進化の実験室」の役割も果たしてきたといえます。

しかし近年の観測で、個々の球状星団でも年齢や組成の異なる種族を含んでいるものが少なくないことが明らかになってきました。以前から、ケンタウルス座オメガ星団には様々な金属量の星が含まれることが知られていましたが、これはあくまで例外と考えられてきました。また、他の星団についても星によって炭素や酸素などの軽元素組成がかなり異なる現象が見つかっていました。ただし、これらの軽い元素は星が赤色巨星に進化した段階で、内部で新たに作られた成分が表面に表れてくるため、星がもともと持っていた組成が本当に異なっていたのかどうか、明確にはわかりませんでした。

しかし近年の精度の高い測光観測から、主系列や準巨星(赤色巨星に進化する途上の星)の系列が、HR図状で複数にわかれている例が相次いで見つかってきています。これは、一つの球状星団でも組成の異なる星が、おそらく異なる時期に誕生してきたことを示唆しています。分光観測により、系列によって実際に星の組成に違いがあることを確認したという報告もあります。

その中には、驚くべきことに、分光観測から得られる金属量の違いは、星の色から予想される金属量の違いとは逆になっている、というものもあります。通常、金属量の高い星の系列は、色では赤くなる(金属量が低ければ青くなる)のですが、分光観測による測定では、赤い系列のほうが金属量が低いというのです。この説明として、「金属」に含まれていない元素、つまりヘリウムの組成が2つの系列で5割程度も異なるという可能性が示されています。ヘリウムは水素とともにビッグバンで多量に作られる元素であり、ヘリウム量が星によって大きく異なるとすれば大問題です。

このように、昔からよく調べられている球状星団にも、観測の進展で新たな謎が浮かびあがっています。球状星団に望遠鏡を向けると、多数の星が視野に入ってきます。多数の星を一度に高い波長分解能で分光観測することのできる装置を搭載しているヨーロッパ南天天文台(ESO)のVLT望遠鏡により、この分野は精力的に研究されています。

補足解説重元素にもみられる謎

鉄より重い元素の組成が、星によって大きく異なる球状星団もあります。M15という金属量の低い球状星団について、1997年に初めてこの現象が報告されました。すばる望遠鏡による詳細な分光観測でもその様子が確認され、様々な重元素に対して星による組成の違いが調べられました(2006年)。図2に示したのはユーロピウムという重元素(原子番号63番)のスペクトル線の周辺で、M15のよく似た2つの赤色巨星のスペクトルを比較しています。鉄の吸収線は見分けがつかないほど似ていますが、一方の星ではユーロピウムの吸収線がずっと強いことがわかります(他の箇所にみられる吸収線の小さな違いも、ランタンやサマリウムなどの重元素の吸収線の強さに対応しています)。これらの重元素は爆発的な元素合成で作られたものであることがわかっており、その元となった爆発現象と球状星団の星が生まれてくるプロセスの間にどのような関係があったのか考えるうえで、星による組成の違いは重要なポイントとなります。

図1:球状星団M15(国立天文台50cm公開望遠鏡で撮影された全体画像と、すばる望遠鏡で補償光学を用いて得られた中心部の赤外線画像)。
図2:M15の2つの赤色巨星のスペクトルの比較。ユーロピウムなどの重元素の吸収線には顕著な違いがみられる。

記事データ

公開日
2013年7月19日
天体名
M15
観測装置
すばる望遠鏡(HDS)
波長データ
可視光線

この記事が掲載されている国立天文台ニュース

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