分光宇宙アルバム

07太陽コロナのスペクトル

太陽の周囲に広がるコロナを地上から見るには、太陽の円盤が完全に隠される皆既日食の時を待たないといけない。可視光線では太陽の表面があまりにも明るく、希薄なコロナから来る弱い光を観測することが難しいためである。太陽コロナを詳しく調べるには、可視光線よりもっと波長の短い紫外線やエックス線で観測するのがよい。高温のコロナは波長が短い光をたくさん放射するためである。しかし、波長が短い紫外線やエックス線は地球大気を通ってくることができない。人工衛星によって宇宙から観測する必要がある。

「ひので」に搭載された極端紫外線撮像分光装置(EUV Imaging Spectrometer, EIS)は、太陽コロナが出すスペクトルを分光観測する装置である。極端紫外線とは、紫外線の中でも波長の短い波長域のことで、その波長域には100万度を超える高温プラズマが放射するスペクトル線が多数存在している。一番多いのが鉄イオンが放射する輝線である。鉄は原子番号26、つまり電子を26個もつことができる元素である。高温なコロナの中では、電子がはがれて鉄イオンとして存在し、温度が高くなるほど、はぎとられる電子の数が多くなる。どの鉄イオンが輝線を放射しているかを調べることで、コロナの温度を知ることができる。

「ひので」EISによって観測された太陽コロナの極端紫外線スペクトルの一部
図1:「ひので」EISによって観測された太陽コロナの極端紫外線スペクトルの一部。鉄イオンが放射する輝線が多数存在していることが分かる。例えば、「Fe X」は電子が9個はぎとられた鉄イオン、「Fe XIII」は電子が12個はぎとられた鉄イオンを示している。価数の異なるイオンの輝線強度比からコロナの温度を求めることができる。さらに、輝線の波長位置を詳しく調べることで、ドップラー効果によってコロナの運動速度を求めることもできる。

補足解説コロナの温度は100万度?

太陽コロナの温度は100万度と言われるが、実際には、様々な温度のプラズマが常に同居している。100万度程度のそれなりに温かいところ、200万度を超えるような本当に熱いところ、さらに、巨大な太陽フレアが発生したときには1000万度以上の超高温プラズマが観測される。極端紫外線域の太陽スペクトルはそのような多温度性を持ったコロナの温度や運動を調べる上で必要不可欠なものである。

極端紫外線の鉄イオン輝線で作った太陽コロナの単色画像
図2:極端紫外線の鉄イオン輝線で作った太陽コロナの単色画像。各鉄イオンが存在できる代表的な温度を示してある。

記事データ

公開日
2012年10月17日
天体名
太陽
観測装置
極端紫外線撮像分光装置(EIS)
波長データ
極端紫外線

この記事が掲載されている国立天文台ニュース

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