分光宇宙アルバム

15「変わり種」超新星がもたらす新発見

どの世界にも「変わり者」はいて、厄介者扱いをされる事もあろうが、時としてその社会の進展に大きく貢献する場合もある。8~10メートル級望遠鏡の実用化が進んだ90年代後半以降、いくつもの有益な「変わり種」超新星が見つかっている。

楕円銀河に現れた超新星SN2005czは、初期スペクトルの特徴から、水素層を失った親星における重力崩壊型超新星(Ib型)に分類されたが、現在星形成をしていない楕円銀河に、寿命が短い大質量星を親星とする超新星が現れることは、一般的には理解し難い。加えて、この超新星は極大光度が暗く、減光も速いという特異な性質を示していた。観測がこの初期で終わっていれば、単なる変わり種扱いで、さほど脚光を浴びずに終わったかもしれない。しかし、すばる望遠鏡で爆発半年後の星雲期に得られたスペクトルに、その素性を紐解く証拠が隠されていた。それは、カルシウムの輝線が強いながらも、酸素輝線が非常に弱いという、他の重力崩壊型超新星では見られない特徴であった。重力崩壊型超新星となり得る大質量星のうち、軽い方の限界に近い(初期質量が太陽質量のおよそ10倍の)親星におけるコアの爆発を、爆発前から存在した水素外層に邪魔されずに、つまり(おそらく伴星によって)水素外層が剥がされた状態で目撃することができた例であると考えれば、観測された様々な特徴はつじつまが合う。母銀河は楕円銀河ではあるが、数千万年前に星形成活動を経たという最近の研究があり、この程度の質量の恒星が寿命を迎える時期とちょうど一致する。恒星の質量関数によれば、重力崩壊型超新星におけるこのような「軽い」親星の個数割合は高いはずで、星間空間に対する寄与も大きいことから、今後の理論・観測両面での進展が期待される。

補足解説汚れのないSN2005cz

超新星内部の大気まで見通す後期分光観測が可能となって、重い恒星の進化に関する理解が大きく進展してきた。初期質量が太陽の10倍程度の親星による重力崩壊型超新星は、通常、水素の線が強いII型として観測されると考えているが、爆発前から存在する厚い水素層によって情報が汚染されてしまう難点がある。SN2005czは一見変わり種だが、実は、汚染を避けて我々に爆発のピュアな情報を与えてくれた貴重な存在であったのだろう。

図1:楕円銀河NGC4589に現れた特異なIb型超新星SN2005cz。黄色の矢印で示した星が超新星。
図2:すばる望遠鏡FOCASで極大光度から約半年後経ったSN2005czに対してロングスリット分光を行って得たスペクトル画像。比較のため、分光標準星のほか、星雲期の類似型超新星(SN2005aj,2004dk)のスペクトルも示している。左右が波長方向(右が長波長側)で、波長は最下段に示してある。上下が空間(=スリット長)方向で、いずれも約30秒角幅。上下方向に一様な強度で写っている多数の線は、地球大気によるスカイ輝線であり、天体固有のものではないことに注意する。どの超新星も、幅の広い酸素([OI])やカルシウム([CaII])の線を持つが、SN2005czの酸素の線は非常に暗いことがわかる。
図3:図2から得たSN2005czのスペクトル(最下段、赤)を、他の超新星の星雲期のスペクトルと比較したもの。O/Caの生成量比は親星の質量への依存性が高いことが爆発モデルで予測されていることから、[OI]/[CaII]の強度比がSN1993J(IIb型)やSN1994I(Ic)に比べて極端に小さいことは、SN2005czの親星がこれらの超新星の親星(12~15太陽質量)よりも軽かったことを示唆する。

記事データ

公開日
2013年10月15日
天体名
SN2005cz
観測装置
すばる望遠鏡(FOCAS)
波長データ
4700~9000Å

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