分光宇宙アルバム

16惑星状星雲は銀河系のプローブ

惑星状星雲は、超新星爆発を起こさないような中低質量星(一般的には太陽質量の約0.5~8倍)の最終進化段階にある天体です。赤色巨星を経た星は自らの外層大気を放出し、残った中心部分は半径が小さくなり急速に高温な白色矮星(中心星)へと向けて進化を開始します。その中心星の表面温度が数万度を越えると強力な紫外線が放射されるようになり、それが放出した外層のガスを電離させて光らせるようになります―これが惑星状星雲です。名称に「惑星」という文字が入っていますが、これは小口径望遠鏡で見たときに面積を持ってみえる電離ガス部分の見かけのイメージが、惑星のそれと類似していたという歴史的経緯から来るもので、太陽系内の惑星とはまったく異なる天体です。惑星状星雲のスペクトルでもっとも際立つ部分は、電離ガス中の各イオンから放たれる可視光を中心とした輝線スペクトルで、それぞれの輝線の強度比を求めることによって、電離ガスの温度や密度、そして電離ガス中の各イオンの存在比率を推定することができます。

このような惑星状星雲は銀河系内の各所に存在していますが、輝線天体で検出しやすいということもあり、銀河系の構成天体のなかではもっとも遠くまで見通すことのできるものであるといえます。こうした特徴から、銀河系各所に散らばった惑星状星雲を調査することにより、それぞれの場所の化学組成等の情報を収集することができる恰好の「プローブ(=探針)」的な存在としても注目がされる天体であるともいえます。

図にスペクトルを示したM15 K648やBoBn1は、銀河系円盤から遠く離れたハローに属する惑星状星雲です。実は、惑星状星雲がどのような星から進化してきたか(親星と呼ばれます)を観測から判断するのは難しい問題なのですが、銀河系ハローに所属していることで一定の制限を与えることができます。これは一般的に銀河系ハローは、銀河系形成初期の古い星で構成されているものと考えられているからで、実際にこれらの銀河系ハロー惑星状星雲のスペクトルからも重元素が少ない古い星の特徴が伺えるのですが、炭素などの一部の組成比が他の元素と比較して大きくなっている等、予想よりも重い質量(年齢の若い)の星の進化モデルでないと説明できない特徴も合わせ持つことが分かりました。この矛盾をどのように説明すべきかは難しい議論になりますが、これらの惑星状星雲の親星が連星であり、相手から質量の輸送があったとすれば説明ができそうです。このような天体の調査により、銀河系初期の化学組成の解明につながるとともに、我々の太陽のような星がどのような最期を迎えるのか、その具体的な姿が明らかになっていくと期待されます。

図1:ハッブル宇宙望遠鏡による球状星団M15内の惑星状星雲K648の画像。青=酸素(500.7nm)、緑=水素(656.3nm)、赤=窒素(658.3nm)の各輝線の合成擬似カラー(Alves et al. 2000, AJ 120, 2044)。
図2:M15 K648のHDSによるエシェルスペクトル画像。中心星の淡い連続光に電離ガスからの多数の輝線が重なる。
図3:ハロー惑星状星雲BoBn1のスペクトル。BoBn1はK648と異なり星団には属していないハローフィールドに属する惑星状星雲(Otsuka et al. 2010, ApJ 723, 658)。

補足解説遠くを見てさらに近くを知る

惑星状星雲は検出しやすい銀河系内の「プローブ」として注目される天体だと述べましたが、困った点もあります。それはその距離と親星の質量(年齢)の不確定性が大きいことです。電離ガス雲の形状も球対称に近いものから双極構造を持つものまでバラエティに富んでいてその理解を難しくしています。しかし、近年の大望遠鏡により我々の銀河系のお隣にあるアンドロメダ銀河やマゼラン雲、さらにはもっと遠いおとめ座銀河団などの中の銀河のなかにも惑星状星雲が発見され、詳細な地図が作られつつあります。すばるでも検討されている可視主焦点多天体分光器のような装置や、さらに巨大な30メートル級の次期超大型望遠鏡では、こうした近傍銀河の惑星状星雲の詳細な調査が進むことが期待されます。これらはすべて距離が一定のサンプルとして扱うことができ、銀河のどのような場所にあるかも一目瞭然です。こうした観測が進んでいくことによって、近傍銀河についての精密な調査ができるのと同時に、これまで研究されてきた銀河系内の惑星状星雲についてもより理解が深まることが期待されています。

記事データ

公開日
2013年10月15日
天体名
銀河系ハロー惑星状星雲(M15 K648、BoBn1)
観測装置
すばる望遠鏡 高分散分光器(HDS)
波長データ
可視光線

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