分光宇宙アルバム

17X線で探る超新星残骸内部のレアメタル

星の中にはその一生の最後に超新星爆発という大爆発を起こすものがある。秒速数千キロメートルの爆風は数百万度のプラズマを作り出し、まさしく一つの世界の終末である。しかし、その残骸は星が生きていた時代に核融合で作りだした重元素をばらまき、次世代の星や惑星、その上に生きる生命の素となる。

この「星の生と死」も研究テーマの一つにしているのが日本のX線天文衛星「すざく」だ(図1参照)。超新星爆発の残骸は高温なので可視光ではなくX線で強く輝く。また、物質が全て激しくイオン化し、「特性X線」と呼ばれるX線を放射するため、重元素が爆発と共にどのように散らばったのか知ることが出来る。「すざく」は過去の衛星に比べ雑音が低く較正も正確なため、より正確に重元素量を測定したり、含有量の少ない重元素を発見したりすることが可能だ。図2は、ティコ・ブラーエが爆発の瞬間を観測した「ティコの新星」の現在の姿だ。爆発から400年以上経った現在も、シャボン玉のように膨張を続けている。「すざく」はティコの新星からのX線の中に、「レアメタル」として最近話題になっているクロムやマンガンからの特性X線を発見した(図3)。超新星残骸からのレアメタル発見はこれが世界で初めてである。またこの発見は単なる一元素の発見に留まらず、星の中でどのように元素合成・宇宙空間への拡散が行なわれたかを知る手掛かりになると考えられている。

図1:2005年7月10日に打ち上がった「すざく」衛星(想像図)。前方に出ているのは全反射を利用してX線を集光するX線望遠鏡で、検出器は胴体底部分にある。
図2:「すざく」衛星搭載撮像分光検出器XIS(下)で観測したティコの新星(上)。カラーは、X線のエネルギーの違いを表し、赤→緑→青の順にエネルギーが高くなる。
図3:「すざく」衛星搭載撮像分光検出器XISで観測したティコの新星の分光スペクトル。微弱ながらクロムやマンガンの輝線が見える。

補足解説「すざく」衛星と可視光天文学

「すざく」衛星に搭載されている撮像分光検出器「XIS」は、「すばる」など可視光の望遠鏡にも用いられているCCDと実はほぼ同等の検出器である。ただ、X線は可視光に比べて1光子のエネルギーが高く、天体からたどり着く光子数も少ないため、一つ一つの光子の到来時間とエネルギー、位置の全てを測定する検出方法がとられており、現在ではX線天文学の標準的な検出器の一つになっている。JAXAが2015年打ち上げを目指して開発中の次世代X線天文衛星ASTRO-Hの撮像分光検出器SXIは、国立天文台との共同研究で開発が進められている。

ひと口メモ

「すざく」は超新星残骸以外にも多くの成果を挙げています。興味のある方は、ぜひ「すざく」の公式ウェブサイトを訪れていただけると嬉しいです。
「すざく」公式ウェブサイト

記事データ

公開日
2014年2月17日
天体名
ティコの新星(SN 1572)
観測装置
X線天文衛星「すざく」搭載撮像分光検出器 XIS
波長データ
X線

この記事が掲載されている国立天文台ニュース

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