分光宇宙アルバム

21宇宙最大の爆発で探る初期宇宙

ガンマ線バーストとは、宇宙のある方向から予告もなく、短時間の間(典型的には数秒間から数十秒間)ガンマ線やX線がやってくる現象である。現象自身は1960年代終わりに発見されたが、その後30年間にもわたって、銀河系の中で起こっているのか外で起こっている現象なのかさえ不明なままであった。1997年にガンマ線バースト発生後数日続く「残光」がX線と可視光で発見され、可視光「残光」の分光観測により、赤方偏移が決定され、銀河系外で起こる宇宙最大の爆発現象であることが判明した。

図1:FOCASによるGRB 050904残光の3分積分画像。緑色の円内のかすかな天体が残光。

2005年9月4日(世界時)に発生したガンマ線バーストGRB 050904の残光分光観測は遠方宇宙の観測の新しい地平を切り開いたすばる望遠鏡の誇るべき成果である。GRB 050904残光は画像の上では点源であり、さしたる特長もない。しかしながら、そのスペクトルには遠方宇宙の貴重な情報が刻み込まれていた(図2)。イオウ、ケイ素、酸素、炭素の吸収線が同じ赤方偏移6.295で見られ、これら重元素の柱密度が計られた。同様に水素の柱密度も測定することができ、水素と重元素の柱密度の比から金属量が求められた。ガンマ線バーストが起こった銀河内の星間物質であるガスの金属量がおよそ太陽の1割であることが分かった。そして、最も重要な観測結果は、このガンマ線バーストが起こった赤方偏移6.3の宇宙の中性度が観測的に求められたことである。赤方偏移6を超えるクエーサーのスペクトルを用いて宇宙の中性度の測定は既に試みられていたが、緩い下限値、0.1パーセント以下としか決められていなかった。GRB 050904残光の分光観測では水素のライマンα、β吸収線の両方の線輪郭が観測できたことにより、中性度の上限値が0.17と決められた(図3)。赤方偏移6.3の宇宙は既にほぼ電離していたことが判明した。

図2:FOCASによるGRB 050904残光の2次元スペクトル画像。横が波長で、より右側が長波長である。上下の縦筋は夜光輝線の引き残りによるもの。
図3:スペクトル。赤方偏移6.295の吸収線を点線(赤)で示した。一番右の水素ライマンβ吸収線が決め手となった。

その後、5年ほどの間に、より高赤方偏移のガンマ線バースト(2009年に赤方偏移6.7、2010年に8.2)が2つ観測されたが、GRB 050904残光の分光観測をしのぐ定量的な結果は得られていない。7を超えるようなガンマ線バーストの高精度分光観測をぜひ、すばる望遠鏡で実現したいものである。

補足解説幸運と強い意志とチームワークと

いくつか偶然に重なった幸運も、GRB 050904残光分光観測の成功を助けました。このガンマ線バーストはガンマ線バーストの中でも明るいものであったこと、勘違いによりケック望遠鏡が分光観測を断念し、我々は勘違いによって観測を決行したことなどです。天候も味方しました。しかし、何にも増して観測を成功させたのは研究チーム代表者(河合誠之東工大教授)の強い意志と、それに応えた観測所、望遠鏡、観測装置のおかげと言えるでしょう。

記事データ

公開日
2015年1月30日
天体名
GRB 050904 残光
観測装置
すばる望遠鏡 微光天体撮像分光装置(FOCAS)
波長データ
7000―10000Å

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