23X線分光で探る銀河団
銀河団は銀河の集合として発見された。しかし、その後のX線による観測により、銀河団の中の主役は銀河ではないことが明らかになった。X線を観測するには、人工衛星などを使い、大気に吸収されない宇宙空間に検出器を持っていかねばならない。そうして宇宙からX線で銀河団を観測すると、図1に示すように、X線でしか観測されない数千万度の高温ガスが発見されたのである。銀河と銀河の間の一見何もない空間には高温ガスが満ちており、その質量は銀河の総和の数倍に達する。また、高温ガスを銀河団に閉じ込めておくために、さらに数倍の見えない質量、ダークマターが必要であることも分かったのである。
図2はペルセウス座銀河団中心部のX線スペクトルである。スペクトルから高温ガスの温度、密度、重元素量などが計算できる。たとえば、スペクトル中の輝線は、高温ガス中の重元素からの放射であり、ケイ素や鉄などの重元素が銀河から遠く離れた高温ガスにも含まれることがわかる。最近の「すざく」の観測によりクロムやマンガンといったレアメタルも発見されている。これらの情報から、銀河団中で起こった超新星爆発の回数なども推定できる。実は、銀河団の高温ガス中の重元素量がメンバー銀河に現存する量よりも多いことが知られている。重元素は銀河中の星の超新星爆発により作られたと考えられるが、銀河から銀河間空間にガスが出て行くメカニズムはまだ明らかになっていない。
なお、「すざく」は銀河団の端(図1の破線。ビリアル半径と呼ばれている)の暗い放射を観測できる感度を持った初の衛星であり、多くの銀河団の外縁部が観測されている。銀河団の端では非一様性や非平衡状態が強く示唆され、銀河団外部からガスが降着している影響であると考えられている。銀河団は重力的に束縛された宇宙最大の構造であり、その成長はガスだけでなくダークマターの分布やダークエネルギーの性質にも影響を受ける。銀河団が成長を続けている現場を理解することは宇宙の構造進化を理解する上で大事である。今後も精度の高いX線観測を続けることで、宇宙の構造形成、進化に迫っていけると期待される。
:ASTRO-HのSXS
XISなどのX線CCDの分光性能(エネルギー/エネルギー分解能)は50程度である。これは他波長に比べると非常に小さく、大幅な向上が待ち望まれている。それを実現するのが、日本の次期X線天文衛星ASTRO-H搭載のSXSである。SXSは絶対温度50ミリ度(摂氏マイナス273.1度)という極低温で動作し、X線入射による温度上昇を精度良く測定することで、分光性能1000を達成する。SXSによるペルセウス座銀河団のシミュレーション観測を図3に示す。違いが一目瞭然であろう。これだけの分光性能があれば、ドップラー効果を利用して毎秒100キロメートルほどの速度を測定することができる。銀河団ガスの乱流状態や他の銀河団との衝突の有無など新たな知見を得ることができる。しかし、宇宙でこれだけの極低温を実現することは簡単ではない。同様の検出器が「すざく」にも搭載されていたが、科学観測を行う前に極低温が保てなくなってしまった。その失敗を繰り返さず、世界が待ち望むX線の精密分光を実現するべく、私たちは開発を進めている。
記事データ
- 公開日
- 2015年2月 日
- 天体名
- ペルセウス座銀河団
- 観測装置
- 「すざく」衛星 XIS
- 波長データ
- X線1.0~7.5 keV(1.6~12Å)